表紙

月とアルルカン 42


 短い髪を撫でつけるようにすると、莉亜は唇をなめ、低く言った。
「瑠名って変わってる」
「え?」
 意外な言葉が返ってきたため、瑠名は勢いをそがれた。
「何?」
「変人。 よくあんなひどい人と付き合えるね」


 ひどい?
 瑠名はゆっくり肩をそびやかし、表情を険しくして尋ねた。
「一ノ瀬さんのどこがひどいの?」
 莉亜は目を伏せ、トートバッグから厚みのある茶封筒を取り出した。 そして、口を開けて中を見せた。 札束が入っているようだった。
「さっき石神井公園に呼び出されたの。 機械の代金が入ったから、借りたお金返すって。 それで車で行ったんだけど」
 眼が怯えた感じで揺れた。
「すごい怖かった。 脅されたの。 これで貸し借りなしだ、今度邪魔したら潰すって言われた。 瑠名をターゲットに決めた、何年かけても落とすんだって」


 瑠名は、ゆっくり車のドアから腕を引いた。
「またそんな。 もう作り話はやめよう」
 莉亜の視線が、鋭く瑠名の表情をかすめた。 口が歪んだ。
「何よ。 あいつ言ったのよ。 同じ金持ち娘なら素直なほうにするって。 お前もボロボロにされたくなかったら、もっと扱いやすい男選べって!」
 本気で脅したんだ。 瑠名にはその様子が、目に見えるようだった。
「ほんとなら、莉亜が怒らせたからよ。 男の人は、なめたら怖いんだから」
「あいついい男ぶってるだけなのよ! ターゲットなんて言われて平気? 悔しくない?」
「やだ莉亜。 私の心配してくれるの?」
 びくっとなって、莉亜は顔を背けた。
「誰が……」
 瑠名は二歩車から離れて、はっきり言った。
「私のことは、莉亜には関係ない。 莉亜のことにも、私興味ないから」
 そして、きっぱりと向きを変えると、すたすたと駅を目指して歩き出した。



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イラスト:アンの小箱
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