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月とアルルカン 41
石神井〔しゃくじい〕の閑静な住宅街に、メタルブルーに光るアクセラがスイッと曲がって入ってきた。
生意気そうだがなかなか綺麗なショートヘアーの娘が、一人で乗っていた。 彼女は、白壁の稜線に赤煉瓦を嵌めこんだ堂々たるデザインの二階家の前に車を止め、運転席から腕を出してリモコンのスイッチを押した。
黒い折畳式ドアの車庫は、びくともしなかった。 娘はもう一度乱暴にスイッチを操作し、それでも開かないと知ると、舌打ちして車外に出た。
車庫横の裏木戸に手をかけたとき、背後から聞き覚えのある声がした。
「そっちから行っても駄目よ。 電源切ってあるから」
莉亜は、目を怒らせて振り返った。
今降りたばかりの車の横に、瑠名が軽く寄りかかっていた。 濃褐色の瞳が、値踏みするように莉亜のライトブルーのジャケットとマリクレールのトートを眺めた。
元姉が落ち着きはらっている分、莉亜の顔に焦りが出た。 莉亜は向き直って車の傍まで戻り、噛みつくように言った。
「私の車に触らないでよ」
体を動かさずに、瑠名はじっくりと洒落たセダンの車体を観察した。
「新車で買ってもらったのよね。 三百万はしたでしょう」
「あなたに関係ない!」
そう言い捨てると、莉亜は瑠名をドア付近から押しのけて、もう一度乗ろうとした。
ドア口を、瑠名の腕がサッと遮った。
「洲川の叔父さんに話したわよ。 叔母さんにも。 二人ともびっくりして、私に謝ってくれたわ」
莉亜の頬が、みるみる赤味を帯びた。 二人の目が合い、火花を散らした。
「チクッたのね!」
「言って当然よ。 ねえ莉亜」
瑠名は、わざと莉亜を呼び捨てにした。
「私に甘えないで。 これまでは、特別な親戚だと思って我慢してきた。 でも、私の好きな人に嫌な思いさせるのは許さない。 戦うわよ。 使える手は何でも使って」
初めて見る瑠名の気迫に、莉亜はたじろいだ。 肩を張って隠そうとしているが、小さい時から知っている瑠名には虚勢が見通せた。
「嫌な思いなんかさせてない。 調べたら、実家が資金不足で困ってるっていうから……」
「お金をちらつかせて、私とは二度と会うなって条件つけたの? そうやって一ノ瀬さんの自尊心ズタズタにしたんだ」
驚いて、莉亜が息を吸い込む音が聞こえた。
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イラスト:
アンの小箱
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