表紙

月とアルルカン 37


 瑠名が店に入っていくと、昌太朗はすぐ気付いて手を上げた。
 テーブルを三つ通り過ぎて、瑠名は昌太朗の斜め横に座った。
「時間きっちり。 相変わらず固いね〜」
「ショータッチが先に来てたのは、珍しい」
「まあ、うん……さすがに悪かったなと思ってさ」
 昌太朗は困ったように、また鼻をこすった。


 とりあえずコーヒーを頼んでから、瑠名は昌太朗の顔をまっすぐ見つめた。
「最初から話して」
 昌太朗は、前に置いたチーズベーコンバーガーの残りに視線を落とした。
「最初か。 やっぱ学食かな。 あいつが急に話しかけてきて」

 十二月の頭に、昌太朗はゼミの知り合いと大学の食堂に行き、世間話をしていた。
 やがて、女の子の話題になった。 気が強いけど可愛いところもある美並について語っているうちに、なんとなく美並の親友でお嬢様っぽい瑠名の名前が出た。
 その後、食堂を一人で出たところで、呼び止められた。 相手がXメンという仇名のある一ノ瀬だとわかって、昌太朗は驚いた。

「ヒュー・ジャックマンに雰囲気が似てるんだってよ。 そうか? 顔似てないと思うけどな」
「ジャックマンはいいから、諒さ…… 一ノ瀬さんはそのとき何て?」
 昌太朗は顎に手を当てて、上目遣いになった。
「へえ、一ノ瀬の名前、リョウってのか」
「そんなのもいいから」
「はいはい。 それで、ヤツのほうから、可愛いけどモテないというお嬢さんに紹介してくれって言ったんだ」
  昌太朗は、フッと鼻息を吹き出した。 戸惑っている様子だった。
「そいで俺、思ったんだよ。 これは逆玉狙ってるなって。 普通そう思うだろ? あのルックスだもんな、一ノ瀬は。 だから紹介料がっつり頂いたってわけ」
 話しながら頭が次第に傾いて、全身がクェスチョンマークみたいになった。
「でもあいつ、予想を遥かに越える動きしやがってさ。 美並が言ってたよ。 一之瀬は瑠名ちゃんをハートから追い出すために会いに来たんじゃないか、なーんて」

 どういうこと?
 瑠名は知らない間に緊迫した顔になっていた。
「私を忘れたかった? そういう意味?」
「ああ」
 昌太朗は、目の前の崩れかかったバーガーを、上の空で積み木のように組み立てた。
「一ノ瀬の理想は、町工場のおかみさんなんだと。 貧しくても一緒に、歯を食いしばって頑張って、みたいなの。
 あー、俺にはわからん。 そういう昭和な発想は」





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イラスト:アンの小箱
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