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月とアルルカン 30
食後は、まったりした雰囲気になった。 耕太がスローな音楽をかけて、踊りたい人は踊り、後は適当に散らばってくつろいだ。
一ノ瀬と瑠名は、ステンドグラス風に仕上げた出窓の前に立っていた。 そこからは、綺麗に刈り揃えた寒椿の生垣が見えたが、彼らがそこに陣取ったのは花を見たいためではなく、他のゲスト達と少し離れて、二人きりになりたかったからだった。
玉刈りにしたハクチョウゲやツツジを配置した庭は、冬の陽を受けて白っぽく光っていた。
出窓の縁に両手をついて、一ノ瀬は戸外に目を凝らした。
「俺って、優しくないよな」
瑠名はびっくりした。 彼ほどしっかりして優しい男の子に会ったことがないと、ちょうど思っていたところだったから。
「そんなことない」
「いや、そうだよ。 力入れすぎて手首に痕つけるなんて、セクハラって言われてもしょうがない」
「あれは、莉亜がいけないのよ」
瑠名はちょっと勇気を出して、横の広い肩に軽くもたれかかった。 すぐに一ノ瀬は腕を回して、瑠名の胴を引き寄せた。
「なんであの子、瑠名ちゃんだけに意地悪するの?」
一ノ瀬は納得いかないようだった。 やっぱり事情を話そう、と、瑠名は決めた。
「許せないんだと思う。 三番目に生まれたから、養女に出されたってことが」
すぐ思い当たって、一ノ瀬は右腕の中の瑠名を見つめた。
「彼女、瑠名ちゃんの妹?」
瑠名はゆっくり頷いた。
「優紀子〔ゆきこ〕おばさんは子供のできにくい体質で、前からうちの母と約束してたんですって。 三人目ができたら、男でも女でも養子にほしいって」
「そうか……。 でも、ひがむことはないよな。 大事にされてるんだろ?」
「すごく可愛がられてる。 一人っ子だから何でも買ってもらえるし。 こっちのほうがうらやましいぐらい」
瑠名は苦笑した。 だが、一ノ瀬は笑わなかった。
「甘やかしすぎだな。 俺も一人っ子だが、何でも手に入るなんて想像つかない。 うらやましいというより、怖いよ」
三時になって、肇が昼寝の時間だと言って、客たちに別れを告げ、奥に入っていった。
それが、解散の合図だった。 若者たちは、もてなしてくれた文子に挨拶して、次々と帰路についた。
瑠名はキッチンで、ダンボールやスチロール樹脂のトレーなどの片づけを手伝った。 一之瀬は耕太や求と共に、広間の椅子を元の位置に戻した。
キッチンを整理し終わり、広間を覗いた文子は、平常の姿に戻った室内を見て、ホッとした表情になった。
「すみませんね一ノ瀬さん。 いつも後が大変なんだけど、今日は楽だわ」
「こっちこそ、さっきはありがとうございました」
一之瀬は、折り目正しく礼を言った。
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イラスト:
アンの小箱
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