表紙

月とアルルカン 27


 一騒ぎ終わった後で、賞品が配られた。 さっさと開けた連中によると、普通賞は好きな物を選べる二万円分の商品券らしい。 瑠名は、箱を一ノ瀬に預けて、キッチンへ昼食の手伝いに行った。

 六畳ぐらいある広い台所が、届いた料理や手作りのオードブルで倉庫のようになっていた。 それを大皿やコンポートに盛り付け、バイキング形式にして出すのだ。 瑠名と摩利だけでなく、香織も手助けに来たし、耕太と求はせっせと運んだ。
 孫たちで顔を見せないのは、莉亜だけだった。 いつもは一応来るのだが、どうしたのだろう。 瑠名は、軽い胸騒ぎを覚えた。

 カートにデザートを乗せて運んでいって、瑠名は広間に一ノ瀬の姿がないことに気付いた。
 莉亜もいない。 同伴者のタレント小清水は、打ち解けて肇と談笑している医者の木谷たちから離れて、左のソファーで脚を組み、つまらなそうに雑誌をめくっていた。
 瑠名の胸騒ぎはどんどん大きくなった。 二人そろってトイレに行ったはずはない。 もしかして、どこかで立ち話しているとしたら……。
 カートを回して廊下に戻りながら、瑠名は二人を探しに行こうかと考えた。 だが実行する前に、玄関から靴を脱いで上がってくる一ノ瀬が目に入った。
 彼は、莉亜の手首を袖口の上からしっかりと掴んでいた。 莉亜は嫌がって振りほどこうとしているが、一ノ瀬は離さない。 莉亜の上等なフリル付きのブラウスの袖が、よじれて皺になっていた。
「やめてよっ! 大声出すわよ」
「出せば?」
 一ノ瀬は平然と言い返した。
「恥かくのは、そっちの方だ」
 もがいていた利亜の目が、あっけに取られて廊下の端から見つめている瑠名の視線と合った。
 一ノ瀬も、ほぼ同時に瑠名に気付いた。 それで、莉亜を引きずるようにして大股でやってきた。
「瑠名ちゃん、この子のやり口、わかったよ」
 左手がジャケットのポケットに入り、一枚の写真を取り出して、瑠名に渡した。
 その写真を見た瞬間、瑠名は目を裂けるほど見開いて、真っ赤になった。





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イラスト:アンの小箱
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