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月とアルルカン 16
四人で集まると、どうしても、調子のいい昌太朗と明るい美並の掛け合いで会話が進んでしまう。 まだ食べ足りないらしく、頭を寄せてデザート選びを始めた二人に、瑠名は思い切って声をかけた。
「私はデザートいいから」
「えー?」
美並が不満そうに顔を上げた。
「スイーツぐらい付き合おうよ」
「うん、今度ね」
そして、バッグを手に取ると、さりげなく一ノ瀬に尋ねた。
「午後のバイト何時から?」
鼻筋の通った横顔が、わずかに揺れた。
「五時半」
瑠名はほっとした。
「そう。 じゃ、ええと、二人で話せないかな。 歩くだけでいいんだけど」
「え、なに? デートのお誘い?」
聞き耳を立てた昌太朗に、瑠名は真面目な視線を返した。
「そうじゃなくて、もうちょっと友達らしくなりたいの。 私、不器用で、うまく仲良しに見せること、できなそうだから」
「あ、そうね」
美並はすぐに納得した。
三分後、一ノ瀬だけと連れ立って、瑠名はビルから出た。 昌太朗は階段まで一ノ瀬についてきて、彼にしては珍しく小声でひそひそと話した後、ようやく解放してくれた。
「瑠名ちゃん、一ノ瀬は今、金欠なんだから、そこんとこよろしく」
「はい。 ほんとに歩くだけだから」
そう答えてから、瑠名は急いで付け加えた。
「もし一ノ瀬さんが嫌じゃなければ、だけど」
「別に」
一ノ瀬は、相変わらずボソッと答えた。
外は、風が出てきていた。 夕暮れが近付く師走の街には、いつも以上に人通りが多い。 肩がぶつかりそうな通行人の波を、二人はうまく受け流しながら、駅へ向かった。
長いマフラーを一巻きして、両端を前に垂らすと、胸元が温かくなった。 一ノ瀬は瑠名に合わせて、ややゆっくり歩いてくれているようだ。 だから瑠名も、あまり彼にストレスをかけないように、普段より足の運びを速くした。
「一ノ瀬さん、決まった人いる?」
決まった人? と、一ノ瀬は低く訊き直した。 瑠名は言い換えた。
「あの、好きな人だけど」
少し黙った後、一ノ瀬はまた問い返した。
「いたら、どう思う?」
「うん? あ、いや……」
当然だと思う、という答えは、なぜか喉に引っかかって、消えてしまった。
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イラスト:
アンの小箱
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