表紙

月とアルルカン 12


 次に昌太朗から連絡が来たのは、暮れも押し詰まった二十八日だった。
 午後、母と買い物に出た瑠名が、五時過ぎに戻ってきて、部屋に上がって包みをほどいている最中に、電話がかかってきた。
「よっ、元気?」
「まあまあ」
「一ノ瀬が、着ていく服いくつか選んで、試着してみたから、写真見てほしいって」
「あ、写メで?」
「うん、まあそれでもいいんだけど、ちょっと会わない? あさっての午後、空いてる?」
「火曜? 予定はないけど」
 携帯を持ち替えて、瑠名はちょっと顔をしかめた。 もう『リックラック』には行きたくない。 だって、火曜日だもの。 大売出しは年末ぎりぎりまで続くらしいから、広場にはピエロがいるはずだ……。
 瑠名のためらいを見透かしたように、昌太朗が声を張った。
「あのさ、一ノ瀬のバイト先の近くに、いいコーヒーショップがあるらしいのよ。 JR新宿駅の東口で、マックの向かいなんだって。 そこで会わん?」
 ああ、それなら。 瑠名はほっとした。
「美並も来るって?」
「うん、あの子も暇らしくて。 昼飯そこで食うから、一時に東口前で集まろう」
「一時ね。 わかった、じゃね」
 電話を切った後、瑠名は少し考えた。
―― 一ノ瀬さんが写真撮ったんなら、マッチするように、私も当日用の服着て撮っといたほうがいいんじゃないかな――


 写真を撮るなら、父や母より断然兄の幸隆が上手だ。 ラッキーなことに、今日は日曜だから家にいる。 瑠名は、服を着替え、ヘアスタイルをできるだけ整えてから、東の端にある兄の部屋へ行き、ドアをノックした。
「なにー?」
 のんびりした声が返ってきた。
「ちょっと頼みがあるんだけど」
「どんなー?」
「写真撮ってほしいんだ」
 ベッドから降りるガタンという音がして、数秒でドアが開いた。
 じろじろ妹の様子を見ながら、幸隆は怪訝〔けげん〕そうに言った。
「見合いでもすんの?」
「するわけない! 芦沢会に一緒に行ってくれる人と、コーディネートするの」
「ああ、あれね」
 幸隆の顔が渋くなった。
「ジーさんも、いい加減やめないかな。 いくら元外交官だって、ここは日本だぜ、日本。 必ずカップルで来るように、なんて、もてないヤツには最悪だよな」
 瑠名にはグサッと来る言葉だった。 兄が彼女を指して言ったのではないことは、よくわかっていたが。




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イラスト:アンの小箱
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