表紙

月とアルルカン 9


 二人の服装が合うかどうか、新年会の前にもう一度会って確かめることにして、打ち合わせは終了した。
 昌太朗が皆から代金を徴収して、支払いを済ませた後、四人は一団となって外へ出た。
 風は弱くなっていたが、気温は更に下がり、吐く息が白く見えた。
 フードを被り直しながら、美並が昌太朗に訊いた。
「私らは駅に行くけど、ショータッチは?」
「俺っちも駅。 一ノ瀬はこれからバイト?」
「いや。 今日は夜だけ」
「どんなバイトしてるの?」
 美並が無邪気そうに尋ねた。 前を向いたまま、一ノ瀬は短く答えた。
「バーテン」
「女のお客に誘われない? ケー番とか渡されて」
「全然」
「うそだー」
 美並はニヤついた。
 瑠名は昌太朗と美並に挟まれて、そわそわしながら歩いた。 心の中では後悔していた。 前に連れていったのは、中学の友達と、高校時代に合唱団つながりで知り合った他校のボーイフレンドと、母親の友達の息子だった。 三人とも、新年会までは楽しく付き合っていたのに、その直後、申し合わせたように冷たくなって、去って行った……。
 憂鬱〔ゆううつ〕な思い出にひたっていて、次第に瑠名の足は遅くなった。
 あの三人と比べて、一ノ瀬さんは見た目が良すぎる。 それに、よそよそしい。 初めて会った赤の他人だから、当然といえば当然だが。
 彼と行くのは冒険だった。 カレシどころか友達でさえなく、お芝居の『代理恋人』だと、すぐ見抜かれてしまう不安があった。

 あれやこれや考えているうちに、瑠名は大事なことを忘れてしまった。 美並もそうで、いつもの近道を自動的にたどって、アーケードの付近まで来た。
 足元の舗道に視線を固定して、ぼんやりと歩いていた瑠名は、頭上から不意に白塗りの顔が降りてきたため、ぎょっとなって立ちすくんだ。

 ピエロは、すかさずオレンジ色の花束を突き出した。  瑠名が受け取らないと知ると、バッグの中にポンと入れた。 そして、嬉しそうに銀の輪を背後から取り出した。
 しまった、今日は木曜日だった!
 瑠名は大慌てで手を大きく振った。
「だめ、だめ」
 そして、とっさに長身の一ノ瀬の向こうに回り込んで、身を隠した。
 二歩先を歩いていた美並が気付いて、急いで引き返してくると、胸の前に大きく腕で×を作った。
「だーめっ!」
 ピエロは大口を開けて笑い、美並と瑠名の上にヒラヒラと、ピンクの花びらの雨を降らせた。



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イラスト:アンの小箱
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