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月とアルルカン 7
翌日の午前に、昌太朗からメールが入った。 話はすぐにまとまったとのことだった。 明日の午後『リックラック』へ、打ち合わせに連れて行きたいから、三時に来られるかと訊いてきた。
大学の図書館でメールを開いた瑠名は、予定を見て考えた。
――明日は午前に一コマ授業があって、午後も一コマだけ。 待ち合わせ三時なら、充分間に合う――
次の日、授業は無事終わり、レポートの提出も何とか間に合った。 ほっとした気持ちで、瑠名が正門に向かうと、灰色の門柱から美並がひょっこり顔を出して手招きした。
「瑠名、こっち!」
瑠名はすぐに足を速めた。
門の横にいたのは、美並だけだった。
「ショータッチは、一ノ瀬さんて子と直接カフェに行くって」
「あ、そのほうがいい」
目立ちたくない瑠名は、内心喜んだ。 女子大でもキャンパスを男性が歩いていることはよくあるが、一ノ瀬クンの実物が写真ほど美形だとすれば、けっこう人目を引きそうだったからだ。
ファー付きのフードを頭に被ると、美並は続けた。
「一ノ瀬さんと会うとき、お金の話はしないでくれって。 もちろん直接手渡しもダメ。 ショータッチのやつ、いくらピンハネするつもりなのかね〜?」
「実はショータッチも金欠なの?」
不思議に思って、瑠名は訊いてみた。 すると美並は渋い顔になって、首を振った。
「あいつは単に、遊ぶ金が欲しいだけ」
冷える日だった。 空を薄ねずみ色の雲が覆い、時おり吹きつける風は肌の水分と温度を奪っていった。
「うー、さみ〜〜。 早く行ってホットなエスプレッソ飲もう」
「そうね、あそこの店、りんごタルトおいしいんだ。 他にガトーショコラなんかも」
「いいねいいね。 寒いとおなか空く。 急げ!」
クリームと白でまとめた外装が爽やかな『リックラック』に入ると、奥の席で男子が慌てたふうに立ち上がった。
動作が急なので、自然と目が行った。 穿き込んだジーンズと、短めのキルティング・ジャケットを着ている。 頭も短く、前髪だけがフワッと多めに垂れていた。
写真より、一段といい男だった。
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イラスト:
アンの小箱
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