表紙

月とアルルカン 3


 一枚目は、全身が写っていた。
 地味なうぐいす色のダッフルコートを着て、どこかの舗道を歩いている。 踏み出した脚がすらりと長いので、背が高いんだろうとわかった。
「これじゃ顔がはっきりしないから、こっち見てみて」
 サッと写真が二枚目に切り替わった。
 横から覗きこんでいた美並が、男の子みたいに低く口笛を吹いた。
「へぇー、なかなかのもんじゃない」
 瑠名もそう思った。 正直言って、ちょっと見とれた。 右斜め前から撮った青年の顔は、鼻筋が通っていて、一文字の口がキリッと締まり、美しいだけでなく、なかなか賢そうだった。
「ショータッチの友達にしちゃ、理知的じゃん?」
「友達ってほどじゃない。 キャンパスの知り合いってだけ。 こいつ年中バイトしてるから、めったに見ないのよ」
「名前は?」
「一ノ瀬〔いちのせ〕。 下は知らない」
「優等生でしょ」
「らしいな。 いつ勉強してるんだか」
 昌太朗は、心底不思議そうに言った。


 一ノ瀬という男子は、いつも金に困っているらしかった。 犯罪以外なら、何でもする覚悟らしい。
「別に、大した行事があるわけじゃないのよ。 おじい様に……祖父に新年の挨拶をして、お年玉貰ってパーティーして、皆で写真撮って、お開き」
「けっこう気を遣いそうだな。 服装は?」
「そうね、やっぱりスーツが多いかな。 羽織袴で来た人もいる」
「成人式みたいだな」
 昌太朗はフムフムと頷いた。
「男の家柄なんて訊く?」
「学歴には興味あるらしい」
「それなら大丈夫だな。 俺っちの大学は、世間的に有名だから」
 昌太朗は胸を張った。 昔から、俺っちと自分を呼ぶため、仇名がショータッチになったのだ。
「まあ、六大学の一つだもんね。 ショータッチは運良く入ったクチだろうけど」
「うんそう裏口からって、何言わせるんだ」
 ベーグルをほおばりながら、昌太朗は陽気にノリ突っ込みをやっていた。


 携帯の画面に浮かんでいる、適度に彫りの深い顔立ちを、瑠名はしばらく眺めていた。 その様子は、あまり盛り上がって見えなかったのだろう。 昌太朗が首をかしげて不安そうに尋ねた。
「やっぱ駄目?」
「じゃなくって」
 まだ画像から目を離さずに、瑠名は呟いた。
「よすぎる。 私が自分の力でキャッチしたって、誰も思わないんじゃない?」
「わーお、謙虚だわねー、おねーさん」
 安心して、昌太朗は口に手を当てるとオカマ笑いした。




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イラスト:アンの小箱
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