表紙

月とアルルカン 2


 瑠名は、小さく口元を引き締めた。
「拉致〔らち〕はされてない。 彼女のせいだっていう証拠もないの。 でも、態度でなんとなく、そうじゃないかと」
「彼女って?」
 昌太朗が、遠慮なく尋ねた。 瑠名は、冷たくなりかけたモカを、一口そっと飲んだ。
「洲川莉亜〔すがわ りあ〕。 私の従姉妹」
「いとこか〜」
 昌太朗は口の中で繰り返した。
「すがわりあ。 すがわりあ……。 覚えとこう」
「なんで?」
 瑠名が目を上げて訊くと、昌太朗は邪気のない顔でニコッと笑った。
「瑠名さんの新しいパートナー候補に、教えてやんなくちゃーと思ってさ」

 新しいパートナー候補?
 この発言には、瑠名だけでなく美並もびっくりした。
「ちょっとショータッチ、どういうこと?」
「いやー、いい男がいるんだよ。 条件ピッタシな奴が。 イケメンで、背高くて、人当たりよくてさ。 そいでもって、ドン底か〜ぐらいに金欠野郎なの」
 いたずらっぽく、昌太朗の目が輝いた。
「どう? お買い得だよ!」
「お買い得って、売る気?」
 瑠名より先に、美並のほうが疑い深そうに尋ねた。
 昌太朗は、当然といった様子で、大きく頷いた。
「安心、安全、ボクの保証つき。 デートクラブより遥かにいいと思うけど?」
「じゃ、試しに訊こう。 いくら?」
 美並の問いに、昌太朗は、遠い目になって少し考えた。
「そうだな。 十万でどう?」
「たった一日で十万て!」
 美並の剣幕に、昌太朗は慌てて値引きした。
「五万でいいよ、五万で。 それプラス必要経費二万」
「そこから手数料いくら取るのよ」
「三割ってとこかな」
「ハケンよりボッタクる!」
「相場だよ相場」
 まるで掛け合い漫才のような二人の話を、瑠名は戸惑った表情で聞いていた。
 当人なのに置き去りにされているのを見て、昌太朗は焦って携帯を取り出した。
「そんな顔しないで。 実物見てみて。 ほら、こいつ」
 写真を素早く選ぶと、昌太朗は腕ごと瑠名の前に突き出した。





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イラスト:アンの小箱
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