表紙








とりのうた 92


 八月三日、空が文字通りのスカイブルーになった暑い日曜日の昼、未夏は 基子に電話をした。
 図書館の裏庭で、ベンチに座って携帯を耳に当てていると、間もなく基子の声が聞こえた。
「おひさ!」
「あ、うん、そう言えば」
 どぎまぎしてしまって、未夏は声を低くした。
「今話せる?」
「だいじょぶ。 今日は暇、ってより、ここんとこずっと暇。 彰司さんが、青森へ出張しちゃって、当分帰ってこないのよ」
「あ、そうなんだ」
「そうなの」
「じゃっと……今晩か明日の晩、会える?」
「いつでもオーケーだよ」
「じゃ、あの」
 なんだかしどろもどろになってきた。
「今、家?」
「そう」
「仕事帰りに迎えに行っていい? うちに来てほしいんだけど」
「あ、行く行く!」
「それじゃ、七時かそれぐらいに」
「待ってるよ!」


 門の前に自転車を止めると、すぐ基子が出てきた。 興奮して、目をきらきらさせていた。
 並んで歩き出すとすぐ、基子が言った。
「達弥さん断わったんだって?」
「……うん」
「金持ちにさらわれたって言ってたよ」
「それは違う」
 顔を上げて、未夏はきっぱりと答えた。
 そのとき、車道の向こうから博己がこっちへ来るのが見えた。 未夏たちを迎えに来たのだった。
 彼は、大股に交差点を突っ切った。 そして、二人の前に立つと、基子に優しい笑顔を向けた。
「こんばんは、基子ちゃん。 まだ基子ちゃんって呼んでいいのかな」
「え?」
 基子は、目を丸くして博己を眺め、それから横の未夏に視線を移した。
「あれ?」
「わかんないよね。 前は基子と背丈変わらなかったもの。 今は一八二センチあるって」
 一拍置いて、未夏は緊張した声で紹介した。
「古河博己くん。 今の名前は、坂口博己」
「……博己くん? それで坂口って……えっ? 坂口?!」
 急激に驚きが襲ってきて、基子はよじれ、あわてて未夏の自転車に掴まった。









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