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申し込みは、とどこおりなく受け入れられた。 男たちはそれぞれ、緊張がほぐれた表情に変わり、いつも通り出勤していった。
母は純粋に喜んでいた。 よかったね、お互いに必要なんだから、と祝福してくれた。
だが未夏は、まだ落ち着かない気持ちだった。 新木達弥に事情を話して、プロポーズを断るという、気の重いことが待っているためだった。
通勤用の自転車を玄関前に引き出してから、ようやく未夏は携帯を手に取った。
かれこれもう一ヶ月連絡していない。 達弥からもかかってこなかった。 巷では様々なことが囁かれているから、彼の耳にも情報の断片ぐらいは入っているはずだ。 ボタンを押したものの、声を聞くのが怖いぐらいだった。
三コールで、達弥が出た。
「未夏?」
未夏は、そわそわと電話を持ち替えた。
「そう。 長いことかけなくてごめん」
「いろいろあったんだろう?」
達弥は突き放すように言った。 声が投げやりだった。
「うん……どっかで会える?」
「会ってどうするよ。 どっちみち、俺たちもうダメなんだろ?」
「……ごめんなさい」
そう言うしかなかった。 すると電話は、カチッと切れた。
携帯をバッグにしまいながら、未夏はふっと涙ぐみそうになった。 博己は最初から特別な存在だったが、達弥とも十年近い交友歴がある。 よく気が合って、楽しかった。
大切な友達……そう、達弥はあくまでも友達だったんだ、と、未夏は気付いた。 少なくとも、未夏のほうはずっとそう思っていた。 貴重な男の友人だと。
友を失うのは、ある意味恋人と別れるぐらい辛い。 達弥のほうも友達だと思っていてくれたらよかったのに。 未夏は寂しかった。
夜、いつもより早く帰ってきた博己は、指輪を未夏に贈った。
ダイヤを繊細な枝が取り巻く、豪華な中にも上品な指輪だった。 左手の薬指にはめて、未夏はしばらく見とれていた。
「ありがとう。 うっとりするようなデザイン」
「気に入ってよかった!」
自分も覗き込んで、博己は息を弾ませた。
「実は一ヶ月前に注文したんだ。 ショップのデザイナーと話し合って、こういうのにしてほしいって」
未夏は、ちらちら光るリングをもう一度見直した。
「じゃ、世界で一つ?」
「そう」
―― 一ヶ月も前に。 うちへ来る早々から、結婚を考えていてくれたんだ――
未夏は、博己の誠実さに、改めて涙が出そうになった。
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