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半月して、別荘から掘り出された統真の遺骨が戻ってきた。
白骨は一応荼毘〔だび〕に付され、両親の墓の傍にひっそりと葬られた。
年頭から怪しかった景気は、九月に入って世界的に悪化した。
とばっちりを食って、日本の株式市場も低迷した。 だが、坂口財閥は持ちこたえた。 当主の死によって念入りに会計監査が行なわれ、クリーンな経営をしていたことを財界に認められていたのが大きかった。
九月半ば、湘南地域に開発した新しい総合商業プロジェクトが完成した。
真夜中過ぎ、下の庭にそっと車が入ってくる音がしたので、未夏はいつものように目を開け、ベッドをすべり出た。
階段を上がってくる足音は、いつもより速く、そして軽かった。 落成式はうまく行ったんだな、とわかって、未夏は喜んでドアから顔を出した。
爪先で駆け上がってきた博己は、常夜灯に淡く照らされた未夏を目にすると、無言のまま近寄って、ぎゅっと抱きしめた。
興奮に詰まった声が、じかに未夏の胸に届いた。
「やったよ! 俺のデザインしたメイン・ビルが特に評判よくて、この時期なのに入居希望が次々入った」
「すごいね!」
未夏も息を弾ませた。 博己は大きく首を頷かせ、更に続けた。
「おかげで、次のプロジェクトの予算が増えた。 別の話も来てるし」
フーッと大きく息をついてから、博己はパジャマ姿の未夏を抱えて、ぐるっと回した。
「また仲間に戻してもらったよ。 統真くんの代わりじゃなくて、博己で」
「もともと博己だったんだよ」
彼の耳元で、未夏はぼそりと囁いた。
「統真っていう人のままだったら、会社は今ごろばらばらになってたと思う。 ヒロちゃんだったから、まとまった。 そうじゃない?」
「どうかな」
そう呟いて、博己は未夏の耳たぶにキスした。 それから頬に。
「まだ三十の若造だから、こつこつと実績積んでいかないと。 でも当面、ハブにされる心配はなくなった。 すげーホッとした!」
「うん」
「ね、未夏ちゃん」
「なに?」
「これからもずっと、一緒に戦ってくれる?」
ドキッとした。
これは、申し込みだろうか。
あまり考える暇はなく、また強く抱きしめられた。
「坂口の父が、よく言ってたんだ。 そろそろ好きな相手作れって。
でも、誰とデートしても、実感なかった。 傍に坐ってほしいと思わなかった。 安心できるのは、未夏ちゃんだけ」
未夏ちゃんだけ……なんて素敵な言葉だろう。 その響きを心行くまで味わいたくて、未夏は目を閉じた。
息だけの囁きが、遂に究極の言葉を口にした。
「結婚しよう、未夏ちゃん!」
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