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博己が風呂を使っている間に、未夏は言葉を選んで、彼の十五年を説明した。
坂口というビッグネームに、父は仰天した。
「あの大物に見込まれた? それでずっと後継者としてやってきたんだね? いくら息子さんと顔が似ていたとはいえ、凄いことだよ、それは」
「これから会社はどうなるのかしらね」
思案顔で、晴子が呟いた。
「さあな。 緊急重役会議か何か開くんじゃないか? ともかく、大変だよな」
俊之も腕を組んで、渋い表情になった。
風呂から上がった博己を連れて、未夏は階段を上がった。
「昔とほとんど変わらないよ。 窓枠を換えて、家具も少し買い換えたけど」
話しながらドアを開け、電気を付けると、博己は戸口に立って、少しの間懐かしそうに部屋の中を眺めていた。
「ほんとに変わってない。 よく思い出してたんだ。 夢に見たこともある」
それから、横にいる未夏を振り返った。
「でも、ここ君の部屋だから、俺が下に行ったほうがいいんじゃないか?」
「それがまずいんだ。 父さん明日は早くから積み込みに行く日なの。 茶の間に寝てると、朝の四時から電気点けて、ガンガン布団またいでくるよ。 私は余裕で熟睡できるけど」
そう説明して、未夏はクスクス笑った。
博己は、ゆっくり窓に近付き、暗い外を見やった。
「新しい家が建ってるね」
「
富川
〔
とみかわ
〕
さん家。 あの後二年ぐらいして引っ越してきたの」
未夏も窓辺に立ち、博己の手を強く握った。
「これからヒロちゃんに何が待ってるかわからないけど、私はずっと一緒にいたい」
博己の頬に、かすかな震えが走った。
「本当にわからない。 一文無しで放り出されるかも」
「退職金ぐらいは貰っていいんじゃない? みっしり働いたんだもん、たぶん六年ほどは」
明るく笑って、未夏は博己にそっと寄りかかった。
とたんに、ぐっと抱きしめられた。 耳元で、辛そうな息が囁いた。
「明日、会社の方に連絡取ってみる。 社長の葬儀に、遠くからでも参加したいし」
博己のやるせなさを思って、未夏まで胸が迫った。 首に腕を回し、爪先立ちして頬ずりした。
「うまく行きますように。 私の大事なヒロちゃんに、今度こそ明るい未来が開けますように」
優しいキスを二度交わした後、二人はしぶしぶ手を離して、お休みを言い合った。
下に降り、和室で布団を敷いて横たわった後、しばらく寝付かれず、未夏は大きな眼を開けて、夜目にも白い壁を見ていた。
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