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映画が終わって場内が明るくなり、ざわめきが広がった。
その気配で、二人はようやく目を覚ました。
「ね、私のうちへ帰ろう」
未夏の囁きに、博己はびっくりして首を振った。
「無理だよ。 お宅に迷惑だ」
「そんなことない。 ヒロちゃんの疑いは晴れたんだし、警察が私の名前をマスコミに教えたりしないでしょ?」
「でも……」
「うちの親は、ヒロちゃんのことよく知ってるんだよ。 忘れた? 私達、中学の夏休みにいろんなとこに行ったじゃない。 うちにもしょっちゅう来てたし」
「それは昔の……」
「今でも変わらない。 ヒロちゃんちっとも変わってない。 火事の後、ずっと待ってたんだから。 戻ってきたら、親に頼んで、うちに引き取ってもらおうと思って」
「未夏ちゃん」
両手を伸ばして未夏の肩に載せると、博己は声を詰まらせた。 眼鏡越しに見える眼が、瞬く間に充血した。
車が小此木家に続く道を曲がったとき、時刻は間もなく夜の八時になろうとしていた。
軽トラックの横にひっそりと停車させた後、二人は手を繋いで玄関に向かった。 未夏が戸を開けようとすると、一瞬早く中から開いて、母が身を乗り出した。
「未夏?」
「うん、ただいま」
隣りの大きな姿を、晴子は少し不安そうに見上げた。
「ええと、昨日この子を迎えに来たでしょう、たしか?」
「はい」
博己は、喉に詰まった声で答えた。
「お久しぶりです、おばさん」
は? という表情で、晴子はもう一度、前に立つ青年の顔をじっくり眺めた。
それから、妙に静かな調子で呟いた。
「……博己くん?」
これには、未夏も意表を突かれた。
「わかったの? どこで!」
「いや、なんとなく。 博己くんて、独特の雰囲気あるから。
へえ、懐かしいなあ。 入って入って。 さあ」
晴子は、未夏が驚くほど自然な態度で、二人が中に入れるよう道を開けた。
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