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図書館に電話を入れて、早退すると連絡した後、未夏は博己に付き添って、彼の車に乗った。
一応運転席に坐ったものの、博己は激しいショック状態で、しばらくは口もきけなかった。
未夏は、できるだけじっとして、横に座っていた。
五分ぐらい経っただろうか。 博己の手が動き、未夏が膝の上にそろえた手を握った。
そのまま二人は、もたれかかるようにして抱き合った。 未夏の耳のすぐ横で、力の失せた声が響いた。
「覚悟してたんだ……統真のままで罪を被ることになっても、仕方ないと思った」
「そんなことにはさせないって、社長は言ったんでしょう?」
「うん。 でも父……坂口社長には立場があるし、跡継ぎとして本当に大事にしてもらったんだ。 だから、できるだけ社長を巻きこまないようにしたかった」
奥歯に物の挟まったような言い方で、未夏は悟った。 同時に背筋がピリッと冷たくなった。
「もしかして社長さん、本物の統真さんを殺したの……?」
「はっきりとわかってたわけじゃないよ。 なんとなく、そうじゃないかって。 社長か、もしかしたら奥さんが、やったのかなって。
家出したと言っていたけど、探す気配がないし、もう絶対戻ってこないと確信しているようだったから」
未夏の首筋に額を押しつけて、博己は続けた。
「よく言われたんだ。 秘書の田町さんや、父の昔なじみ、本物の統真くんの知り合いなんかに。 君は性格変わった、あんなに裏表があったのに今は別人のようだってね。 だから、統真くんがどんな子だったか、想像ついた」
未夏は目をつぶった。
朱に交われば赤くなる、というけれど、博己は違う。 どこへ行っても、何をされても、博己は染まらず、真っ白なままだった。 しっかりしていて思いやりがあって、優しくて……。
大好きだよヒロちゃん、と心の中で囁いて、未夏は両腕に力を込めた。 博己の心を、どんなことをしても守り抜こうと思った。
ふと気がつくと、ポケットにいろんな物を詰め込んだベストを着た男が、リアウインドウから覗いていた。 その後ろから、何人か取材人らしい男女が走ってくるのも見えた。
「マスコミだ! 行こう」
未夏に告げられて、博己はさっと起き上がり、車を発進させた。 騒いでいる人々は、あっという間に引き離されて、小さくなっていった。
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