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PCで打った長い遺書を読みながら、権藤警部は幾度も唸った。
やがて、目的の個所が見つかった。 権藤は遺書を叩いて大声を上げた。
「坂口義武は、本物の息子を永井川の別荘へ埋めてるぞ!」
たちまち刑事達の輪ができた。
「別荘のどこですか!」
「庭だ。 海に近い北東の角。 ピースという薔薇を、上に植えたそうだ」
「クリーム色の大輪だ。 銘花ですよ。 ただちに永井川へ向かいます!」
潮が引くように刑事たちが出ていった後、更に難しい顔になって、権藤は遺書をめくった。
義武の計画を狂わせたのは、池に投げこまれたマウンテンバイクだった。
ホームレスの山田庄一郎を理由もなく殺したとき、統真は返り血を浴びた。 ズボンが黒かったため、血だらけなのが見えず、そのまま薄茶色のサドルにまたがって、染み込ませてしまった。
彼がどこでそれに気付いたのか。 今となってはわからない。 長年水の中にあっても血が残ったのは、しばらく放置されていたためかもしれない。 ともかく、シミを見つけた統真は池に引き返し、深みに放り込んで、徒歩で帰った。 十万以上する高級自転車だが、また新しいのを買えばいいと考えたのだろう。
息子に人間らしい心がないことを、義武はよく知っていた。
だがまさか、家出中に殺人まで犯していたとは、夢にも思わなかった。
『……統真の名義で登録した自転車が見つかり、凶器の金属バットも傍で発見されたと聞いて、わたしは腰が抜けるほど驚きました。
誓って言います。 統真がホームレス殺人の犯人だと知っていたら、絶対に古河博己くんを身代わりにはしませんでした。
統真は六月生まれです。 連続殺人を犯したとき、すでに満十四歳でした。
確か今の刑法では、十四歳以上を罪に問えるはずです。 十五年前の事件で、その法律が適用されるかどうか知りませんが、ともかく容疑者になっただけでも、かわいい息子の将来が真っ暗になります。 殺人者にされるのですから。 それも、おぞましい無差別殺人の犯人に。
ですから、わたしは決意しました。 彼が与えてくれた幸せな十五年間に報いるため、ここにすべてを告白します。
古河博己くんには、何の責任もありません。 彼はわたしの罪を知らないし、まして本物の坂口統真のしたことには一切関係ありません。
どうか、親の気持ちをお察しくださって、善処を心よりお願いいたします。
坂口義武』
最後に、きちんと実印が押してあった。
痛む目をこすってから、権藤警部はぶっきらぼうに言った。
「この長い遺書を書いて、後始末をするのに、時間稼ぎしたんだな」
「そうですね」
残っていた武川部長刑事が相槌を打った。
「うちにも男の子がいますから、坂口社長の気持ちはわからんでもないですね。 うちの敏樹は平凡で、どこにでもいるゴンタ坊主だからいいけど、こんな悪魔みたいなのが生まれたら、親はどうしたらいいのやら」
「坂口社長は、悪魔を天使にすり替えたか」
フン、と鼻息を立てて、権藤警部は遺書をそろえ、きちんと畳んで封筒に入れ直した。
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