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ピンと張り詰めた空気を破るように、取調官が、足元に落ちた写真と通帳を拾い上げた。
「古河博己だって? 誰だ?」
未夏をしっかり抱えたまま、坂口が静かに言った。
「僕です」
それからしばらくの間、取調室は混乱に陥った。
何人もの職員が出入りし、終いには署長まで姿を現した。
慌しい部屋の中で、『坂口統真』、改め古河博己は、一つのことだけを繰り返していた。
「全部話します。 ただ、その前に、坂口の父と話させてください。 電話でいいですから、お願いします」
「そこの彼女も同じこと言ってたんだぞ!」
取調官は唾を飛ばしてわめいた。
「まず君と話してからだってな。 引き伸ばし作戦は、もう止めろよ!」
「ちがいます! 五分でいいんです。 父の立場を考えてやってください。 さもないと」
「さもないと、何だ」
ドアが乱暴に開かれ、別の男が飛び込んできた。 そして、署長を見てびっくりして敬礼した後、傍に寄って囁いた。
署長の口から、小さな叫びが漏れた。
「本当か?」
「はい、一時間ほど前に」
「一時間も前か……」
「はい。 電話で秘書が呼ばれて自宅へ行くと、もう絶命していたそうです。 遺書がありまして、今秘書が持ってくるとのことです」
遺書という言葉に、博己の顔が引きつった。 署長が難しい表情で出ていこうとするのに、立ち上がった彼の鋭い声が飛んだ。
「それは……坂口の父ですか?」
署長は足を止め、振り返った。
「そうだ。 坂口社長が猟銃で自殺した」
ウッという声が、博己の喉から出た。
彼が再び椅子に坐りこみ、頭を抱えてうずくまるのを、刑事たちは静まり返って眺めていた。
未夏も、慰める言葉がなく、黙って彼の横に立ち尽くしていた。
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