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「何ですか! この人は関係ない!」
窓ガラスが鳴るほどの大声で、坂口は叫んだ。
「小此木さんがどうしてもって言ったんです。 我々が無理に連れてきたわけじゃない」
若い刑事の言葉に続けて、未夏は必死に声を出した。
「ごめん、びっくりさせて。 でも、黙ってられなかった。 どう考えても間違ってるもの。 ね、話していい? ほんとのことを!」
坂口は、ゆっくりと椅子に腰を落とした。 その顔から、すべての感情が拭ったように失われた。 怒り、当惑、どちらも一瞬で消え、ただ眼だけが得体の知れない意志を持って、未夏に集中した。
固定したその視線に、未夏は全身全霊で語りかけた。
「余計なお節介に見えると思うけど、そうじゃないの。 わかったから。 私、ほとんど全部わかったから!」
坂口は動かなかった。 未夏は本能的に前へ進んで、坐っている取調官のすぐ横まで来た。
「十五年前、あなたがどこにいて、どう暮らしていたか、アリバイなら、私が完全に証明できる。 していい?
ねえ、ほんとのこと話していいって言って、ヒロちゃん」
突然、坂口の手が机の上で固く握り合わされた。 顔が、みるみる血の気を失っていった。
取調官の一人が未夏を見上げて、低い声で訊いた。
「アリバイ? 十五年前の七月二十八日と八月五日の夜ですよ。 そのとき、あなたまだ子供だったでしょう?」
「中二でした」
真っ青になった坂口を凝視したまま、未夏はやっとの思いで答えた。
「でも、十五年間忘れたことないし、いつも会いたいと思ってました」
細かく震える手で、未夏はバッグから写真を出し、胸の前にかざした。
「これが基子で、貞彦で、私。 これが、あなた。 お祭の晩に撮ったの、大切にしてたんだ。 楽しかったよね。
みんなあなたが好きだった。 貞彦だって。 貞彦が家出したの、知ってる? きっと……これのせいだと思う」
そう言いながら、未夏は通帳を出した。
「これ、さっき見つけた。 稲荷神社に隠してあったやつ。 中を見たとき、やっとわかったの。 おじさんたちがヒロちゃんに何をしたか」
涙がぽつんとその上に落ちた。
「ひどすぎるよ、みんな。 今のお父さんだって、あなたが好きなんでしょう? なぜ本当のこと言ってくれないの? どうしてヒロちゃんを見殺しにできるの?」
部屋を覆った真空のような沈黙の中で、坂口はゆっくり手をほどき、ぎゅっと目をつぶった。
乾いた唇が、わずかに開いた。
「……昨日は、最後の思い出を作りに行ったつもりだった。
でも本当は、気付いてほしかった。
ありがとう、未夏ちゃん……」
未夏の指から通帳がこぼれ落ちた。 写真も落ちて、床にちらばった。
そのまま一気に机を回って、未夏は坂口に飛びつき、固く抱きしめた。
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