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想定外の申し出に、刑事たちは戸惑っていた。
「だから今、取り調べ中で」
「邪魔はしません。 傍で見ててくれていいんです。 ただ、彼に会わないと、知ってることを言えないんで」
「なぜですか?」
じれったそうに、若い男が訊き返した。
未夏は、火の出るような激しい眼差しで、相手を見つめた。
「彼だけじゃなく、他の人の人生にも大きな影響があるからです」
二人は、未夏から少し離れ、小声で相談し、電話をかけた。
それから、気の進まない様子で戻ってきた。
「まあ、会うだけなら。 物を渡したりするのは無しですよ」
「はい。 五分だけ待ってもらえますか? 家で化粧直ししたいんです」
泣いた跡がわかる顔を見て、中年刑事がうなずいた。
「どうぞ」
玄関から飛び込んだ未夏を、緊張した顔の母が迎えた。
「外で話してたの、警察でしょ? さっき来て、未夏さんいますかって」
「うん」
生返事して、未夏は一気に二階へ駈け上がった。 そして、鏡に向かう前に本棚からアルバムを取り出し、写真を数枚抜き取った。
きっかり五分で、未夏は支度を終え、刑事たちの普通乗用車に乗った。 行く先は、坂口が聴取されているK市西警察署だった。
それまで警察の建物に入ったことがなかったので、正面入口をくぐるとき、足がすくんだ。 これからやらなければならないことを考えると、更に緊張が増した。
取調室は、二階にあった。 中年の刑事がまず中に入り、二分ほどしてまた出てきて、未夏を差し招いた。
「いいですか、妙な入れ知恵はしないように。 僕たちの責任になるから」
「ありがとう、ご迷惑はかけません」
そう答えて、未夏は若い刑事の後について部屋に入った。
縦長の部屋だった。 手前の小机に一人、真ん中にある机に二人の刑事が席につき、突き当たりの格子窓を背にして、ライトブルーのシャツを着た坂口が坐っていた。
若い刑事の背中から未夏の姿が現れたとき、坂口の表情が大きく変わった。 鋭く息を引いて、腰を浮かせた。
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