表紙








とりのうた 73



 手の甲で涙を拭ってから、慌ててティッシュを出して顔を押さえた。 それでも、手鏡で見ると、目の周りが腫れてメイクがよじれていた。
 家へ帰ろう。 とっさにそう思った。
 メイクをきちんと直したい。 そして何より、ヒロちゃんのことを親に相談したかった。
 二人は彼を知っている。 しかも未夏の絶対的な味方だ。 こんな重大な事実を話せるのは、親しかいなかった。




 小路を曲がったとき、家の門の前に男が二人いるのがわかった。
 嫌な予感がした。
 その予感通り、スーツ姿の男二人は、自転車を止めた未夏に鋭い目を据えて、早足で近付いてきた。
 背の高い方の男が、きびきびした口調で尋ねた。
「小此木未夏さんですね?」
「はい」
 未夏は答えた。 思ったより落ち着いた声が出た。
 男は胸ポケットを探って、警察手帳を出した。
「K西署の木崎です。 図書館に寄ったら、急に外出されたということだったので、行く先がわかるかと思って、お宅のほうへ来たんですが」
 なんとなく周囲を見渡して、木崎と名乗った中年男は続けた。
「ちょっとお話を聞かせてもらえますか? 坂口統真さんのことで」
 もう一人のずんぐりした若い男が口を添えた。
「月曜に、坂口さんと港公園に行かれましたね。 親しそうだったから、彼をよくご存じじゃないかと思いましてね」

 それじゃ、あのときにはもうマークされて、尾行がついていたんだ。 不快な気分になって、未夏は二人を交互に見た。
 そのとき、ある考えがひらめいた。
 大胆な、もしかすると危険な考えかもしれなかった。 だが、未夏は瞬間に決断した。
 二人の刑事のうち、年上の木崎のほうに視線を定めて、未夏は訊いた。
「坂口さんは、今警察で調べられている最中ですか?」









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