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八分ちょっとで、未夏は家の近くにある稲荷神社に着いた。
周囲の建物は、この十五年ですっかり変わっていた。 たとえば、暖簾を下げて、夏はカキ氷、冬はクリーム善哉を出していた店は、雑居ビルに変わり、一階の商店街に吸収されていた。
高いビルが増えたせいで、お稲荷さんはいっそう小さく古び、歩道の横にひっそりと静まっていた。 それでも十五年前と少しも変わらない佇まいだ。 石の柵や、社にかけた五色の幕も、昔のままだった。
未夏は、自転車を柵の脇に寄せて停め、静かに中へ入った。 まず手を合わせてお参りした後、未夏が向かったのは、あの日博己が立っていた砂利の上だった。
あのとき、博己は狐に注意を集中していた。 未夏に見られていると気付かず、何かをしきりに気にしている様子だった。 あれは、どちら側の狐像だったか……目を閉じて、未夏は思い浮かべた。
左。 そう、左の像だ!
歩み寄って、そっと狐の背中を撫でてみた。 赤い前垂れは取り替えられていて、くすんだ像の首にそれだけ鮮やかに目立っていた。
ヒロちゃんが触っていたのは、狐そのものじゃない。 もっと下。 台座だった。
何かに導かれるように、未夏の手が台座に触れた。 古いから、あちこち細かく欠けている。 隙間もできている。 よく見ると、隅から灰色のものがわずかにはみ出ていた。
未夏が指で挟んでみると、汚れたビニール袋だとわかった。 心臓がドクンと跳ねあがった。
気をつけて、破かないようにそっと引き出した。 急いで狐の陰に身を寄せた後、十字にかけてある紐を外し、二重になったビニール袋から、長方形の物を取り出した。
それは、銀行の預金通帳だった。 長い年月で、どうしても少し雨が染み込んだらしく、薄茶色に変わって皺が寄っていた。
でも、名義人の名前は読み取れた。
「古河、博己」
ぱらぱらと中を繰った。 最初のページには、八桁の数字が並んでいた。 それが行を追うごとにみるみる減り、二ページ目で、遂に五桁になっていた。
「四千万円以上引き出されてる。 たった、ええと、三週間足らずで」
これはきっと、自動車事故で亡くなった博己の両親の保険金だ。 そうだとすれば、短期間にこれだけの金を引き出したのは……。
未夏は息が苦しくなって、喉を手で押さえた。
そんなことができるのは、博己の後見人だけだ。 貞彦の親たちなんだ! 預かった大金に目がくらみ、横取りする誘惑に勝てなかったのは……!
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