表紙








とりのうた 68



「そんなはずないです!」
 無意識に未夏の声が上ずった。 その剣幕に、書架の近くでノートを広げていた大学生らしい二人組が振り返った。
 懸命に自分を押さえて、未夏は声量を下げた。
「坂口さんを初めて見てから、まだ一ヶ月ぐらいですよ。 坂口さんが携帯落として、同僚の幸田さんがたまたま拾って……」
 携帯? あっ……。 未夏の表情が固まった。 すかさず白井が言葉を継いだ。
「それだ! 待ち受けになってたはずですよ。 俺が見たのが二ヵ月ぐらい前だから」
 信じられない。 どうしても納得がいかなかった。
「私に似てる他の人じゃないですか?」
「いえいえ」
 白井は大げさに手を振った。
「小此木さんですって。 青いコート着てたから、寒いときに撮ったんでしょうね。 彼は二台携帯持ってて、そっちはプライベートなほうなんです」
 未夏の目が空中をさまよった。 今年の冬に青いコートは、確かに着ていた。 隠し撮りされたんだろうか。 でも……
 白井はか細い声になって、言い訳していた。
「すいません。 でも、あの時は彼に気に入られたかったし、あなたにも悪い相手じゃないと思ったんですよ。
 まさか、あんなことしてたなんて。 二重人格なんですかね」
 未夏はのろのろと顔を上げた。
「あんなこと?」
「ああ、やっぱり」
 白井は、大げさに息を吸い込んだ。
「まだ噂はこっちまで伝わってないんですね。 来てよかった。
 統真さん、任意で調べられてるんです」
「調べる?」
 頭がよく動かない。 未夏は意外な事実を受け入れるのに精一杯で、白井が何を仄めかしているのか考えられなかった。
「何を? 脱税かなんか?」
「そんな軽いもんじゃなくて。 殺しですよ。 十五年前のホームレス連続殺人」











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