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その夜、未夏は幾度も目が覚めた。
昼間の出来事は何だったんだろう。 考えれば考えるほど、頭が霞に包まれたような気分になった。
坂口が未夏に好意を持っているのは間違いない。 だが、どの程度のものかは、ちょっと見当がつかなかった。 彼をよく知らないからだ。
――口のうまい遊び人っていう感じじゃなかった。 だから、結婚しないって言い残していったのかな。 期待持たせないために――
そうかもしれない。 しかし、あの口調は苦かった。 言い訳というより、本当に悩んでいるようだった……
「ともかく、彼の出待ちだわ。 一人でくよくよしてたってしょうがない」
声に出して言ってみて、少しさっぱりした。
それからは、よく眠れた。
翌日の二十四日は遅番で、未夏はお昼の時間帯に、カウンターで受付をしていた。
すると、十二時半を過ぎた頃、白井がせかせかと入ってきて、まっすぐカウンターに歩み寄った。
「これ、返却します」
大きな本を二冊出したところで、白井は少し前かがみになって未夏に話しかけた。
「あの、坂口の統真さんと付き合ってます?」
未夏は、しびれたようになって白井を見返した。 眼に当惑と怒りを感じ取ったのだろう。 白井は口早に続けた。
「すいません、もしそうなら俺のせいです。 俺が勝手に引き合わせちゃって」
はあ?
わけがわからなくなった未夏を見て、白井はますます焦った。
「カフェです。 あの、『レモンリーフ』で待ち合わせしたとき、統真さんと会ったでしょ? あれ、俺がセットしたんです。 つまり、両方に約束して、あそこで待つように」
近くに閲覧者はいなかった。 だから、未夏もある程度の大きさの声で訊き返すことができた。
「なんですか、それ? どうしてそんなことを?」
大人なのに、白井はべそをかきそうな表情になった。
「統真さんがきっかけ欲しがってるかなと思って。 だって、彼の携帯の待ち受け、あなたの写真でしたよ」
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