表紙








とりのうた 67



 その夜、未夏は幾度も目が覚めた。
 昼間の出来事は何だったんだろう。 考えれば考えるほど、頭が霞に包まれたような気分になった。
 坂口が未夏に好意を持っているのは間違いない。 だが、どの程度のものかは、ちょっと見当がつかなかった。 彼をよく知らないからだ。
――口のうまい遊び人っていう感じじゃなかった。 だから、結婚しないって言い残していったのかな。 期待持たせないために――
 そうかもしれない。 しかし、あの口調は苦かった。 言い訳というより、本当に悩んでいるようだった……
「ともかく、彼の出待ちだわ。 一人でくよくよしてたってしょうがない」
 声に出して言ってみて、少しさっぱりした。
 それからは、よく眠れた。


 翌日の二十四日は遅番で、未夏はお昼の時間帯に、カウンターで受付をしていた。
 すると、十二時半を過ぎた頃、白井がせかせかと入ってきて、まっすぐカウンターに歩み寄った。
「これ、返却します」
 大きな本を二冊出したところで、白井は少し前かがみになって未夏に話しかけた。
「あの、坂口の統真さんと付き合ってます?」


 未夏は、しびれたようになって白井を見返した。 眼に当惑と怒りを感じ取ったのだろう。 白井は口早に続けた。
「すいません、もしそうなら俺のせいです。 俺が勝手に引き合わせちゃって」
 はあ?
 わけがわからなくなった未夏を見て、白井はますます焦った。
「カフェです。 あの、『レモンリーフ』で待ち合わせしたとき、統真さんと会ったでしょ? あれ、俺がセットしたんです。 つまり、両方に約束して、あそこで待つように」


 近くに閲覧者はいなかった。 だから、未夏もある程度の大きさの声で訊き返すことができた。
「なんですか、それ? どうしてそんなことを?」
 大人なのに、白井はべそをかきそうな表情になった。
「統真さんがきっかけ欲しがってるかなと思って。 だって、彼の携帯の待ち受け、あなたの写真でしたよ」









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