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この間は美味しかったね、ということで、二人はオープンカフェ『レモンリーフ』へ向かった。
今度は店の中に入った。 奥の席に座り、二人はひっそりと料理を味わった。
店内には押さえた音量で音楽が流れていた。
「いい曲ね」
未夏が言うと、少し耳を澄ませてから坂口が答えた。
「バードランドの子守唄だ。 親父が好きな曲」
「うちの父さんは石川さゆり」
「美人だから?」
坂口はそう言って微笑した。 未夏も笑った。
「そうかもしれない。 歌うまいしね。 母さん少し焼き餅焼いてるみたいだけど」
「母さんか……」
坂口の声が濁った。 ほとんど空になった皿に目を落とすと、彼は一気に言った。
「うちの母は、自殺したんだ」
暖かな色に塗られた店内が、不意に青っぽく感じられるようになった。
未夏はフォークを置き、反射的に坂口の顔を見た。 目を合わせないで、坂口は話を続けた。
「事故死ってことになってるが、本当は違う。 飛び降り自殺した」
どう答えていいかわからない。 未夏は瞬きして、また黙々と食べ始めた。 ぎこちないその様子を目にして、坂口は後悔した様子だった。
「こんなこと言うべきじゃなかったな。 楽しく食事してるのに」
「そんなことない」
未夏は真心を込めて答えた。
「話してくれたのは、信用してるからでしょう? 言わないよ、誰にも。 うちの親にも」
坂口の口が、ぴくっと引きつった。
「ありがとう。 そういえば、人に話したの初めてだな。 うちには秘密が多すぎるんだ」
誰だって隠しておきたいことはある。 打ち明けられたのは嬉しかった。 それだけ坂口との心の距離が近付いた気がした。
「また時間ある?」
カフェを出るとき、坂口はそう訊いた。 未夏が答えようとしたそのとき、携帯電話が鳴った。
「何だ?」
初めて苛立った顔を見せて、坂口は電話を出し、未夏に断わって店の横に行った。
話している言葉は聞こえなかったが、相手の言葉に耳を傾けている顔は険しかった。
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