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いつまでもキスしていたかった。 眼を閉じて彼の腕の中にいるのが自然で、ごく当たり前のことに思えた。
風はますます強くなり、かすれた音を立てて塔を巡った。 強風に追い立てられた雲が空の半ばを覆って、陽射しが消えた。
唇が離れても、二人はしばらく抱き合ったままでいた。 夜明け前のように薄暗くなる景色が、シェルターとなって護ってくれる気がした。
未夏の背中で腕をクロスさせたまま、坂口が呟いた。
「UFOキャッチャーになった気分だ」
とぼけたことを不意に言われたので、一挙にムードが変わった。 未夏はクスクス笑い、彼の胸を頭で軽く押した。
「私は釣れない、重いから」
胸はまだドクドクと鳴っていた。 だが、心は現実に戻りかけていた。 この人にとっては、どうってことないのだろう、キスぐらい。
そう気付いて、未夏は落ち着かなくなった。 誘惑されそうな自分が怖い。 ちょっと焦って、バッグを肩にかけ直した。
「そろそろ、降りない?」
真剣な目が、レンズの向こうから未夏の顔を探った。 低い声が言った。
「軽い乗りでしたんじゃない。 それだけは覚えておいて」
それから未夏の手を取ると、エレベーターへずんずんと歩いていった。
今にも雨が降るかと思ったが、間もなく雲は切れ、太陽が戻ってきた。 二人は手を繋いだまま駐車場へ戻り、黙って車に乗った。
シートベルトをかけ終わって未夏が横を見ると、坂口はステアリングに片肘を置いて前を眺めていた。 わずかな間に頬がこけて影ができた気がして、未夏は眼を大きくして見直してしまった。
坂口の顔が動き、微笑が浮かんだ。
「どうした?」
未夏は急いで首を振った。
「ううん、何でもない」
「昼飯、食べに行こうか」
「そうね」
普通の会話なのに、どこか遠くから聞こえてくる。 未夏はまだ、キスの余韻を引きずっていた。
そして、坂口はそれ以上の気持ちの揺れを感じているようだった。
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