表紙








とりのうた 61



 翌日の月曜日、未夏は坂口の会社の電話番号を名刺で調べて、昼休み前にかけてみた。
 こちらの名前を告げて、少し待っていると、本人が電話に出た。
「坂口です。 小此木さん?」
「はい、昨夜はどうも」
「失礼しました、変なこと頼んじゃって」
「いえ、そんな。 あの、ちょっとお話があるんですが、今お時間ありますか?」
「ええ、平気ですよ。 何か?」
 そこで未夏は、幸田が彼の携帯電話から番号を盗み見て、名簿屋か何かに売ったらしいことを話した。
「お友達に迷惑がかかるといけないから、一応お知らせしたほうがいいかな、と思ったんですが」
「ありがとう!」
 驚くほど大きく、礼を言われた。
「たいていは大丈夫ですが、何人か嫌がるのもいるので、伝えておきます」
 未夏はほっとした。
「それじゃ、どうも」
 切ろうとしたとたん、早口の声が聞こえた。
「待って。 お礼しなきゃ。 どこかで会えませんか?」
「え? そんな大したことじゃ……」
「ええと、そうだ、今日は図書館の休館日だ。 そうですよね?」
「はい」
「これから予定あります?」
「今日ですか? いえ、別に」
「じゃ、港公園行きませんか? 晴れてるから、展望塔から海がきれいに見えますよ」
 混乱しながら、未夏は首を伸ばして窓の外を見た。 確かにすっきり晴れわたっている。 でも、これって……デートの誘いじゃないのか?
「お仕事は?」
 小声で訊くと、オーナー社長の息子らしい答えが返ってきた。
「ああ、働く時間はどうでもなります。 これからお宅まで迎えに行っていいですか?」
 どうしよう。 降ってわいた提案に、未夏は動揺してしまった。
「ええ、あの、もちろん」
 おい!
 自分に突っ込みを入れたくなったが、承知してしまったものは取り消せない。 というより何より、取り消したくなかった。


 電話を切ってから、未夏は茫然とベッドに座りこんだ。 やっと自分の気持ちがわかったのだ。
 未夏は、坂口に惹かれていた。 達弥との間に立ちふさがっているのは、白井勇吾ではなかった。 急速に坂口という渦に引き寄せられる、自らの心だった。









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