表紙








とりのうた 59



 達弥の本心を言わせれば、フロッグハウスを選んだのは大失敗だった、というところだろう。
 ここには顔見知りが多すぎた。 未夏が駈けつけたとき、達弥は奥のテーブルで、サーフィン仲間に囲まれて、わいわいと騒いでいた。
 未夏が来ても、彼らは去らなかった。 立ち去る必要があるとは思ってもみないようで、むしろグラスやジョッキ片手にワラワラと増えてしまった。
 磯の様子や風向き、新しい潜水用具の話などで盛り上がった後、佐治さじというライフセーバーの男子が、ふと言い出した。
「K公園の池、今さらってるだろう?」
「ああ、やってるやってる。 何十年もほっといたからヘドロが凄いって」
「そう、ゴミ捨て場みたいになってて、自転車が何台も捨ててあったんだ。 で、その一台がヤバかったんだよ」
「ヤバい?」
「サドルの皮のとこ、変な汚れ方だったから、警察が調べたら、血が染み込んでたんだってよ」

 各自にぎやかに乱れ咲いていた話し声が、ぴたりと止んだ。
 マーサと呼ばれている美人の子が、声を潜めて尋ねた。
「人間の血?」
 佐治は頷いた。
「相当古いけど、量が多かったから検出できたらしい」
「うー、きもい。 ね、誰に聞いたの?」
「巡査。 中学の同級生」
「なんだろ。 チャリの上でリストカットしたとか」
「あんな不安定なとこでか?」
「交通事故じゃない?」
 未夏が思いついて言ってみたが、一笑に伏された。
「公園の中は車両通行禁止だぜ。 外でぶつけて、わざわざチャリだけ池へ捨てに行くの?」
「一緒に死体も捨ててあったりして」
「プギャー」
「いい加減やめろよ。 食欲なくなる」
 達弥がとうとう不機嫌になった。









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