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適当に答えておけばいいのだが、なぜか正直に言いたくなった。
「迷ってるんです。 すごくいい人だし、気が合うんだけど、特に結婚したいとまで盛り上がらないっていうか……」
「やっぱり結婚って、ドーンと踏み切る勢いが必要なのかな」
そうかもしれない。 達弥とは付き合いが長すぎて、エネルギーが乏しくなっているのかも。
前を向いたまま、坂口は静かに続けた。
「結婚できなくても、ずっと変わらずに続く想いだってある。 元気で、いつも笑って、幸せでいてほしい。 そんなふうな気持ち」
意外な言葉だった。 それに、実感のある話しぶりから、自らの胸の内を語っているような感じがした。
見るからにモテそうで、少なくとも普通の男の子よりずっと恋愛の勝者になれそうな坂口が、そんな恋を?
できればもう少し訊きたかったが、家の前に来てしまった。
「あ、ここが家です」
未夏が足を止めて玄関を差すと、坂口も立ち止まった。
「それじゃ、僕はこれで」
「わざわざすみませんでした」
「こっちこそ。 じゃ、さよなら」
ゆっくりと離れていく背中を、未夏は不思議な気持ちで見送った。 そう何回も会ったわけではないが、いつもの彼と雰囲気が違っている気がした。
なんだか足より気持ちが疲れた。 急がなきゃ、と思いながら、踏んぎり悪く門に寄りかかっていると、見慣れた軽トラックが角を曲がってきた。
運転席から父が顔を出して尋ねた。
「何してんだ、そんなところで」
とたんに、未夏の目が輝いた。 車に飛びつくようにして、未夏は父に頼んだ。
「ちょっと行くところがあるんだ。 この車借りていい?」
「いいけど、軽トラでいいんか? デートだろう?」
「別に見栄張る相手じゃないから」
父と交代して、未夏は実用本位の運転席に乗り込んだ。 さっきのフカフカな乗用車とは、大分趣が違ったが、慣れという安心感があった。
ハンドルを握ろうとして、ふと気付いた。 手に薔薇を持ったままだ。 顔を寄せて香りを嗅いでから、ボードの上にそっと置いた。
殺風景な車内で、そこだけが仄かに光って見えた。
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