表紙








とりのうた 57



 未夏はいくつか考えてみた。
「うーん、多すぎて決められない。 生まれたときから海の傍だったから。
 ただ、無理して言えば」
「言えば?」
「初めてクロールが泳げた日。 友達とバレーボールしたり、ウィンドサーフィン教わったりとか……やっぱり、友達関係が多いかな」
「近くの友達か。 いいな。 僕は鹿児島の男子校へ行ったから、ここら辺には同級生がいないんだ」
 それはまた随分遠くの学校へ。 未夏はびっくりした。
「大学もそっち?」
「いや、東京。 アメリカにもちょっと行ったけど」
 留学か。 やっばりお坊ちゃまっぽい。 話を合わせるのが大変そうだ、と考えたとたん、ハッと思い出した。
 しまった! フロッグハウスで達弥が待ってる!

 大急ぎで時計を見た。 八時三分前。 もうじき家に着く。 チャリで飛ばして十分……だめだ。 自転車は図書館の駐車場だ!
 未夏は頭をかきむしりたくなった。 見事に、完全に忘れていた。 達弥との約束って、自分にはそれぐらいの重みしかないのだろうか。
「すみません、ちょっと」
 坂口に断わって、未夏は慌しく携帯を出し、達弥にかけた。
「あ、ごめん。 人を送ってたら遅くなっちゃって。
 二十分ぐらいで行く。 うん。 いや、迎えに来なくて大丈夫。 すれ違いになると困るから。 うん、じゃね」

 電話をバッグに入れて、再び坂口の横に戻ると、彼が尋ねた。
「彼?」
「え? ああ、どうかな」
 未夏はどぎまぎした。
「長い付き合いのBF。 大学のときからだから、七、八年ぐらい」
「幼なじみって言うには、ちょっと年上か。 でも、青春時代を一緒に過ごしたんだね」
 そう言われれば、確かにそうだ。 青春時代か…… 古い歌の題名みたいで、日常ではあまり使わない言葉のような気がした。
「悪いな、ほんとに。 僕のせいで遅刻だ」
「三十分ぐらい、よく待ったり待たせたりしてるから」
「結婚するの?」
 ズバッと訊かれて、未夏の足が思わず止まりかけた。








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