表紙








とりのうた 53



 名刺交換の後、坂口は軽く手を上げて別れを告げ、すぐ車に乗って遠ざかっていった。
 未夏も自転車を引き出し、明るい気分で家路についた。 坂口青年は自然体で、話しやすかった。 達弥といるときよりも、むしろ気を遣わなくていいぐらいだった。


 日曜の昼休みは、滝山とランチボックスで食べることにしていた。
 二十二日はちょっと蒸し暑く、庭のベンチでは蚊に刺されそうだったため、二人はロッカーのある控え室で、のんびりと箸を運んでいた。
「脚立の足のキャップが一個壊れちゃってね。 ああいうの、どこで買えばいいのかしら」
 未夏は首をひねった。
「ホームセンターかな? ネットで調べてみます」
「よろしこ。 あ、それと、庭箒も傷んできたから、二つ買い換えましょう。 それに、窓用ワイパーも」
「はい」
 ボックスを横に置いてメモしていると、窓の外を見ながら、滝山が思い出して呟いた。
「松山通り、工事してるでしょう?」
「ええ」
「だから、今朝は公園通ってきたのよ。 そしたら、なんか池の周りにテープを、規制線っていうんだっけ、あれ張って、お巡りさんや鑑識の人みたいなのがいたよ」
「何ですかね。 誰か落っこちたとか?」
「事故っていうより、事件じゃないかな。 今、池の水抜いて清掃作業中でしょう? なんか見つかったのよ、きっと」
「はあ、バラバラ死体とか」
「やめてよ」
 滝山は顔をしかめて、鶏の唐揚げを箸から落とした。
「うー、連想しちゃうじゃない」


 夜の片づけは順調に済み、未夏たちは七時半には館内の電気を消して、外に出た。
 達弥と待ち合わせるフロッグハウスまでは、歩いて八分ほど、自転車だと三、四分で着く。 まだ時間があるから、自転車ではなく歩きで行くことにして、のんびりと道を渡ろうとすると、幸田が呼び止めた。
「あれ、そっち行くの?」
「うん、友達と待ち合わせ」
「ふうん」
 そのとき、背後で男の声がした。
「みかちゃん!」








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