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坂口は、鹿嶋市に住んでいるという。 来年の春からK市に支社を開設するので、その準備で週に数回通っているそうだった。
「世の中不景気なのに、事業拡大なんてすごいな」
未夏が感心すると、坂口は笑って首を振った。
「いや、拡大じゃなくて横すべり。 稲敷市にあった施設が古くなったんで、交通の便の良いこっちへ移ることになったんだ」
「ふーん」
相槌を打ちながら、未夏はふと思った。 この人は、幸田みさちゃんと食事した時もこんなに気さくにあれこれしゃべったんだろうか。
食事が終わっても、二人はコーヒーを飲んで半時間ぐらい話していた。
それからようやく席を立った。 坂口は食事代をおごろうとしたが、未夏はソフトに断わった。
「気遣わないでくださいね。 一人で食べなくてすんで、ありがたく思ってます」
「こちらこそ。 楽しかった、とても」
肩越しに駐車場を振り返って、坂口は誘った。
「車で帰るんで、よかったら送るよ」
魅力的な申し出だった。 ちょっと驚くと共に、残念だなと思った。
「自転車を図書館に置いてあるから、それで帰らないと」
「ああ、そんなら図書館まで、ちょっとだけど乗って」
坂口の車は、上質な国産車だった。 派手ではないが燃費がよくて、運転しやすい。 乗り手の性格がわかる車選びだな、と、未夏は感じた。
ほんとに、五分も経たないうちに車は図書館の前に着いた。 停車すると、坂口はさりげなく懐から名刺を取り出した。
「なんか改まった感じで嫌なんだけど」
「あ、どうも」
条件反射的に、未夏もバッグをごそごそやって仕事用の名刺を探した。
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