表紙








とりのうた 50



 二度あることは三度ある、というが、一週間のうちに二回も、食べ物屋で顔を合わせるというのは妙な気持ちだった。
 未夏の席は、坂口が歩いてきた方角から見て大きな寄せ植え鉢の陰になるため、最初は気付かなかったようだ。 三つほど離れたテーブルの椅子を引いて坐った時、初めて顔が合った。
 驚きで、また坂口の目が大きくなった。 二人は何となく微笑み合い、しめしあわせたように別の方角へ視線を向けた。

 あの人も女の子と待ち合わせかな? と未夏は思い、ひそかに好奇心を沸かした。 お互いに存在を意識しつつ、時間が過ぎていった。
 八時になっても、白井は現れなかった。 十分や十五分は待つつもりで、未夏が時間を確かめた後、携帯をバッグに戻そうとしたとき、チリチリと鳴り出してびっくりした。
 かけてきたのは白井だった。 あれれ、と思いながら出ると、恐縮した早口が聞こえた。
「ごめんなさいっ! 突然クレームが来ちゃって、これから夜中まで設計変更するんで、行けなくなりましたっ」
「大変ですね」
「今度ぜったい埋め合わせします。 見捨てないでくださいね」
「いやいやそんな。 お仕事ですから、来られなくてもしょうがないですよ」
「ほんとすいません! ……ああ、吉田から? わかった」
 後半は、誰かから連絡が来たような会話だった。 白井は声を小さくして別れを告げた。
「じゃ、今度また」

 なーんだ。
 肩すかしを食った気分で、未夏は電話を置いた。 すると、坂口も携帯を出して眺めているのが見えた。 メールを読んでいるようだった。
 未夏は口をつぼませて考えた。
――ついでだから、ここで食べて行こうか。 でも、連れが来るって言っちゃったから、ちょっとかっこ悪いな――
 といって、注文しないで帰るのは、すっぽかされ強調になるし。 どうしようかと迷っていると、坂口が席を立って近づいてきた。
 前まで来ると、彼は軽く苦笑を浮かべ、心地よい低音で言った。
「電話の返事、聞こえちゃったんだけど、僕を呼んだ奴も来られないんだって。 だから、こっちのテーブルへ来て、一緒に食べていいかな?」









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