表紙








とりのうた 49



 その日は、帰り道も基子としゃべり倒した。 自分たちでも驚くほど、次から次へと話題が尽きなかった。
 昔通り、基子を家まで送っていって、一人で家まで戻る途中、自然に鼻歌が出た。 久しぶりに疲れが気持ちいい。 シャワーを浴びたように心がすっきりした。 親友と過ごした半日は、ものすごくストレス解消になった。


 夜、寝る支度がすんでベッドにどしんと座りこんでから、未夏は達弥に電話した。 そして、二十二日の夜に飲みに行こうと約束した。
 携帯をサイドテーブルに置いた後、未夏は両腕を上げて思い切り伸びをした。 二十一日には、白井とオープンカフェで会う約束がある。 そのとき、勇気を出して確かめてみるつもりだった。 白井勇吾は、いったい何者なのかということを。
「ウーン」
 眼をギュッとつぶって、未夏はベッドで大の字になった。 白井に会って、はっきりさせよう。 彼の正体と、そして、今のところ自分でもわからない自らの気持ちを。 子供時代の初恋に、いつまでもこだわっているわけじゃない。 心の中で白井の位置付けができれば、安心して達弥にプロポーズの返事ができそうだった。
 瞼を閉じて横たわっていると、昔の諺が頭にひらめいた。
――二兎を追うものは、一兎をも得ず――
 そうだ、二股をかけると、ろくなことにならない。 達弥はいい仲間だ。 肩の凝らない良い夫になるだろう。 本人が言うとおり、身元も確かだし。
 クスッと笑って、未夏は寝返りを打ち、すぐ眠りの世界に突入していった。


 二十一日は、朝から小雨が降っていた。 しかし、午後になると止み、夕方からは晴れ模様になった。
 白井との待ち合わせ場所は、図書館からわりと近い繁華街なので、未夏は自転車を駐輪場に置いたままで歩いていった。
 雨の後にしては空気が乾いて、爽やかな風がそよいでいた。 気持ちがよくて、未夏は店の中ではなく、表のテラス席に座った。
 約束は八時で、今は七時五十分。 とりあえずレモンソーダを頼んで、飲みながらゆったりと町並みを眺めていると、肩に上着を引っかけた若い男が店のほうへやってきた。
 歩き方ですぐわかった。 坂口だった。









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