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あれ?
反射的に、未夏は話を途切らせて、横を見た。
すると、ズボンのポケットに手を突っ込んだ坂口が、隣りの男と話しながら通り過ぎるところだった。
未夏の動作に気付いて、彼のほうもこっちに顔を向けた。 視線が合うと、坂口はちょっと目を大きくして、淡く微笑した。 未夏も微笑んで、軽く頭を下げた。
坂口が並んで歩いているのは、同じぐらいの背丈の大柄な中年男性だった。 二人が奥へ行くにつれて、男性の返事が次第に遠ざかっていった。
「そこのところは、おまえに任せるよ。 他の装備もデザインを揃えて、おまえが交渉してくれ」
二人は熱心に語り合いながら、奥のほうに席を取った。 ウェイターがすっ飛んでいって丁重に頭を下げるのを見て、基子が未夏の袖を引いた。
「ねえねえ、誰、あのかっこいい人? 知り合い?」
「ってほどじゃない。 図書館に来たことがあるの。 ここのオーナー社長の息子」
「うへー!」
基子は、息が荒くなるほど驚いた。
「このデカビルのー? あ、わかった。 あの人がここの券くれたんだ」
「そうなんだけど、ちょっとわけありでね」
そのわけを、未夏は丁寧に説明した。
それで、基子も少し落ち着いた。
「なんだ、それだけ」
「当たり前じゃん」
「一緒に来てるおじさん、もしかして父の社長さんかな」
言われて、未夏も興味を持って、ちらちらと二人を観察した。 たぶんそうだろう。 いくらか顔立ちが似ていた。
息子の坂口が熱心に説明して、父らしい男性が耳を傾けている。 ときどき頷く様子が見てとれた。
やがて、二人は楽しそうに笑い出し、中年男性のほうが坂口の肩を叩いた。
「仲いいね」
遠慮せずに二人を眺めていた基子が、そっと囁いた。
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