表紙








とりのうた 48



 あれ?

 反射的に、未夏は話を途切らせて、横を見た。
 すると、ズボンのポケットに手を突っ込んだ坂口が、隣りの男と話しながら通り過ぎるところだった。
 未夏の動作に気付いて、彼のほうもこっちに顔を向けた。 視線が合うと、坂口はちょっと目を大きくして、淡く微笑した。 未夏も微笑んで、軽く頭を下げた。
 坂口が並んで歩いているのは、同じぐらいの背丈の大柄な中年男性だった。 二人が奥へ行くにつれて、男性の返事が次第に遠ざかっていった。
「そこのところは、おまえに任せるよ。 他の装備もデザインを揃えて、おまえが交渉してくれ」

 二人は熱心に語り合いながら、奥のほうに席を取った。 ウェイターがすっ飛んでいって丁重に頭を下げるのを見て、基子が未夏の袖を引いた。
「ねえねえ、誰、あのかっこいい人? 知り合い?」
「ってほどじゃない。 図書館に来たことがあるの。 ここのオーナー社長の息子」
「うへー!」
 基子は、息が荒くなるほど驚いた。
「このデカビルのー? あ、わかった。 あの人がここの券くれたんだ」
「そうなんだけど、ちょっとわけありでね」
 そのわけを、未夏は丁寧に説明した。
 それで、基子も少し落ち着いた。
「なんだ、それだけ」
「当たり前じゃん」
「一緒に来てるおじさん、もしかして父の社長さんかな」
 言われて、未夏も興味を持って、ちらちらと二人を観察した。 たぶんそうだろう。 いくらか顔立ちが似ていた。
 息子の坂口が熱心に説明して、父らしい男性が耳を傾けている。 ときどき頷く様子が見てとれた。
 やがて、二人は楽しそうに笑い出し、中年男性のほうが坂口の肩を叩いた。
「仲いいね」
 遠慮せずに二人を眺めていた基子が、そっと囁いた。









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