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『夢眩』は、スカイゲイト・ビルの三十六階に位置していて、眺めが素晴らしかった。
スカイゲイトとは、SakaguchiのSとGを採って考えられたビル名らしい。 中には商店街、催事場、シネマ・コンプレックス、貸しオフィスなどが、階を分けてひしめいていた。
幸い、レストランには予約なしで入れ、窓際の席も取れた。 二人とも高級にはあまり縁が無いので、メニューで選ぶのは気疲れすると思い、五八○○円(消費税込み)のコース料理にした。
丁重なウェイターが注文を訊いて去ると、基子が顔を近づけて囁いた。
「すごい値段! 一番安いので三五○○円って、お金食べてるみたい」
「夜はもっと高いよー。 ほら、最低で六千円!」
「料理が来たら、写真撮っとこうか」
未夏はちらっと周囲の様子を見て、やめておくことにした。
「撮りたいけど、なんか気持ちバカにされそう」
「やっば止めとこう」
基子は残念そうに、手にした携帯をバッグに戻した。
やがて来た料理は、さすがにおいしかった。 トマトのトロフィエとか舌を噛みそうな名前で、気後れしたものの、横をさりげなく見るとスプーンだけで食べている人がいたりして、適当に口に運べばいいさ、と度胸が据わった。
それからは楽しかった。 ブティック『ブーケ・ドール』のデザイナー兼オーナー兼縫い子のサトさんが、オーダーしたドレス生地の見本にしていた端布をくれたので、これでウェディング・ベアーを作ろうと話が盛り上がった。
「私が土台になるクマさん買って、この生地で服作るよ」
「未夏は意外と器用だもんねー」
「意外は余計」
「はははっ」
うんとロマンティックなウェルカムボードも作りたい。 手帳を出して、ワインを飲みながら交互に図を描いた。
その横を、聞き覚えのある声が通り過ぎていった。
「いやー、長方形よりカーブのついた跳び箱型のほうがいいと思うな。 あのラウンジはらせん階段だから、そっちのほうが合うよ」
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