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その日は木曜だった。 遅番だし、いつもは一緒に食べることの多い滝山が会館に行ってしまったので、未夏はランチボックスを持って裏口から出た。
外は、よく晴れていた。 朝の予報によると、気温二十五度以上の夏日らしい。 図書館の裏手には小さな庭園があり、網の柵で仕切った向こうには、広々とした調整緑地が広がっていた。
ベンチに座って、景色を眺めつつのんびり生姜焼き弁当を食べていると、電話がかかってきた。 相手は、と見ると、基子からだった。
今でも基子とは親友だ。 未夏の勤務が変則的で、休みが合わないため、たまに夜待ち合わせて飲むぐらいだが、呼吸はピタリだった。
「基子?」
「そう。 しばらくぶりだねー。 一ヶ月ぶりかな?」
「ゴールデンウィークの後だったから、そう、そのぐらいだね」
「あの、今話せる?」
「へいきだよ。 どした?」
「えーと、ちょっと報告なんだけど」
声が小さくなって、照れ笑いが混じった。
「決まったんだ。 式は、十一月の末か十二月の頭ぐらい」
「わあ、おめでとう!」
未夏は息を弾ませた。 基子は大学のサークルで二年上の先輩と知り合い、地道な交際を続けていた。
「ありがとう。
彰司
〔
しょうじ
〕
さんが来年ドイツへ研修に行くって決まって、じゃ一緒に行きたいってことになって」
「いいねー。 うらやましい」
「ほんとに?」
基子が、逆に訊き返してきた。
「結婚引き伸ばしてるの、未夏でしょ? 達弥さんグチ言ってたよ」
ふと嫌な気分になって、未夏は電話を持ち替えた。 達弥が基子にまで相談しているのが、ちょっと白けた。
「私のことはいいから、基子は幸せにひたってなさい。 それより、どっかで会わない? 詳しく聞きたい」
「じゃ、うちへおいでよ。 ええと、日曜の夜はどう?」
「行く!」
おしゃべりは何よりのストレス解消だ。 未夏の声がうきうきした。
「基子のとこ行くの、ほんとに久しぶりー。 昔はしょっちゅう行ったり来たりしてたよね」
「ああ、中学のときね」
基子が、不意にしんみりとなった。
「懐かしい。 貞彦ちゃんもそう言ってた」
未夏は、はっとした。
「貞彦? どっかで会ったの?」
「そう。 十日ぐらい前。 会社の帰りに、銚子まで買い物に行ったら、大きなバイクで通りかかったの」
そこから急に、基子は話しにくそうになった。
「すごく変わったよ。 見てもわかんないぐらい。 腕にタトゥー彫ってて、急に横で停まったとき、恐くて逃げようと思ったもの」
「えーっ?」
それしか言葉が出なかった。 あまりの驚きに。
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