表紙








とりのうた 41



 六月に入ると、そろそろ夏休みの企画を立てるのに忙しくなった。
 最近は、緩すぎたゆとり教育の反動で、読書への関心が徐々に高くなっている。 いくつかの小・中学や高校から、学生向けの本を推薦してくれという問い合わせが来ていたし、読書会や朗読会の紹介も何件かあった。
 滝山は、地域婦人会での群読に力を入れて、自分でも『響きの集い』というサークルを指導していた。 それで、大人向けのリサーチに余念がなく、青少年用の読書選定は、若い未夏と幸田に丸投げした。

 閉架室のテーブルに未夏と向かい合って坐った幸田は、プリントアウトしたリストをめくっては目を丸くした。
「よーく見つけたねーこんなに沢山」
「よその図書館の推薦図書とか、出版社のお勧めリストとか、そんなのから写しただけ」
「それにしても、凄い量」
 指から力が抜けて、だらーんとリストがぶら下がった。
「どう選ぶ? 三行おきとか、鉛筆転がすとか」
「幸田ちゃん」
 未夏は穏やかにたしなめた。
「一応読んでよ。 知ってて面白かったのチェックしよう」
「はーい」
 ポーチから赤縁の眼鏡を出して鼻にかけ、幸田はリストとにらめっこを始めた。 軽い近眼に乱視が混じっていて、コンタクトレンズでは矯正しにくいのだ。
 シンとした部屋に、滝山が入って来た。
「あ、推薦本のリスト作り?」
「はい、K市立第二中のです」
「そう、ご苦労様。 九時半に市民会館でフォーラムがあるの。 これから行くから、開館ふたりでお願いね」
「はい」
「よろしく」
 スタスタと部屋を横切っていて、滝山は思い出して一瞬立ち止まった。
「そうだ、公園が通り抜けできなくなってて、近道ができない。 少し早く出なくちゃ」
 そうだった? 未夏はちょっと驚いて目を上げた。
「通行禁止?」
「そう。 ほら、池が汚れてるから、夏休み前に水を抜いてきれいにするって、言ってたでしょう?」
「ああ、そうそう」
 幸田が思い出した。
「いろんな物捨ててるもんね。 ザリガニ取りに入った子供が、空き缶で怪我したりして」









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