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『金剛石』というレストランに入ると、達弥は慣れた口調で、海老のレモンサラダやスペインオムレツなどを注文した。 さすが営業で、あちこち回っているだけのことはある。 普段のもっさりした達弥しか知らなかった未夏は、別人のような彼に目を見張った。
料理が来てから、達也が低めの声で語り出した話にも驚いた。 なんと達弥は、この二日間を使って、白井勇吾を調べていたのだ。
「未夏の言ってた、昔なじみかもしれない奴って、白井っていうんだろ?」
「え?」
思わず目が泳いだ。 達弥は勝手に納得して、話を進めた。
「その男、新築のマンションに最近越してきたんだ。
潮来
〔
いたこ
〕
市に本社がある
満山
〔
みつやま
〕
建設で設計やってる。 奨学金で大学出た優秀な人材らしいけど」
そこで言葉を切って、達弥はオムレツにナイフを入れた。
「児童養護ホームの出身者だって」
「だいたい知ってた」
未夏の口から、ひょっと答えが飛び出した。
家族がない、と白井が言った時から、そうではないかと感じていたのだ。
未夏が動じないのを見て、達弥はそれだけじゃないというのを知らせようとした。
「千葉の孤児院にいたらしいんだけど、その前どこにいたか、誰も知らないんだ。 記憶がないって言ってて、白井という名前も、後からつけたらしい」
未夏の手からフォークがすべって、落ちそうになった。 急いで受け止めたが、指がこんにゃくのような感じで、力が入らなかった。
「記憶がなくても、学校に入れるの?」
「資格試験に受かれば大丈夫なんじゃね? でもさ、なんか怪しげな男だよな。 関わらないほうがいいと思うよ」
すぐに答えずに、未夏はしばらく黙って口を動かしていた。
心の中も、忙しく動いた。
――話が合いすぎてる。 やっぱりヒロちゃんなの? 記憶を無くしてるってのも、本当っぽい。 私を見る目、覚えてるとは思えないから――
でも私は覚えてる、と、未夏はやり切れない気持ちで考えた。 夜中に焼け落ちた家、毎晩のように見た夢。 ヒロちゃんが帰ってくるのを願った、遠い昔。
では、今も帰ってきてほしいだろうか。
思わず、未夏はナイフを置いて、痛み始めた額を押さえた。
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