表紙








とりのうた 39



 翌日の日曜日は、あいにくの雨だった。 それも叩きつけるようなどしゃ降りなので、未夏は自転車通勤をあきらめてバスに乗った。
 開館時間が近づき、窓越しにエントランスの外を覗いた幸田は、しかめっ面になって戻ってきた。
「ホームレスが並んでる。 五人もいる」
「雨だからね」
 未夏が何気なく答えると、幸田はいっそう口を尖らせた。
「気になんないの? ここは図書館で、あの連中のシェルターじゃないのよ」
「まあいいじゃない。 最近のホームレスは身ぎれいにしてるし、中で騒ぐこともないし」
 奥から出てきた滝山が、陽気に声をかけた。
「さ、今日も気を引き締めて行きましょう。 オープン」


 日曜日は早番だ。 正午が近づいてきたので、未夏がロッカールームへ行こうとして廊下に出たとき、携帯が鳴った。
 達弥からだった。
「そろそろ昼休みだろ?」
「ああ、うん」
「今、大町通りの交差点。 二分で図書館に着くから、メシ食いに行こ」
「うん」
 気持ちの準備ができてなかった。 未夏は達弥のペースに乗せられて、自動的に昼食を約束させられてしまった。
 達弥は、言うだけ言って、すぐに電話を切った。 車内からなので、急ぐのは無理ないにしても、普段の達弥より強引な感じがした。


 ベージュの傘を差し、図書館前の段を降り切ったとき、丁度達弥の白い車が来て、前で停まった。
「すげー雨だな」
「全然小降りにならないね」
 傘を畳んだ未夏が助手席に乗って、ドアを閉めると、すぐ発車した。
「どこ行く?」
「いつもの店でいいよ」
「うーん、いいよって言われると、新鮮味がないな。 昨日すっぽかしちゃったから、今日はイタ飯屋でどうだ?」
 何張り切ってるんだろう。 未夏はいっそう乗りが悪くなった。
「いいよ、無理しなくても」
「無理じゃねーって。 それに、落ち着いたとこで話もあるし」
 話? 仕事中の昼食時にプロポーズの返事はちょっと……。 それに、まだ肝心の気持ちが決まってないし。
 ためらう未夏をちらっと見て、達弥は素早く言葉を続けた。
「いや、返事を早くしろとか言ってない。 別の話」









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