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幸田があまりに幸せ薄い雰囲気だったので、昼休み前に、未夏はこらえ切れなくなって話しかけてみた。
「どうしたの? つまらなそうだね」
誰かに聞いてもらいたかったのだろう。 とたんに幸田はカウンターに乗り出すようにして、グチり始めた。
「ほら、昨夜、坂口さんと食事デートしたじゃない」
デートといえるのかどうか、未夏は首をかしげたくなったが、ともかく相槌を打った。
「うん、それで?」
「そしたら、途中でケバく着飾った女が入ってきて、坂口さんにベタベタしてんの」
溜め息が入った。
「連れの女と他所のテーブルへ行ったから、訊いたのよ、坂口さんに。 誰ですかって。
そしたらさ、まあフィアンセに近いかな、だって」
はっきり言われたものだが、それにしても、本気で幸田が坂口をターゲットにしていたことに、未夏は驚いた。
「金持ちそうな女だった?」
「まあね。 センス悪かったけど」
「金持ちは金持ちと結婚するんだね、やっぱり。 交際範囲がそうだから」
「それじゃ夢も希望もない!」
幸田は大げさに、カウンターに突っ伏してしまった。
日が暮れてくるにつれて、未夏も幸田に劣らず
憂鬱
〔
ゆううつ
〕
になってきた。 八時には『フロッグハウス』で、達弥に会わなければいけない。 そこは海好きな若者が集まるディスコ兼カフェのような場所で、いつもは喜んで立ち寄るのだが、今夜は気が重かった。
しかし、六時半を回った辺りで、その達弥から電話がかかった。
「わるい、仕事が伸び伸びで、九時過ぎまでかかりそうなんだ。 今夜はちょっと行けないな」
しめた! と思ってしまった自分に、自己嫌悪を感じながら、未夏は当り障りない声を出した。
「そっかー。 じゃ、また電話するね」
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