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「なんて奴?」
達弥はどんどん切り込んできた。 困って、未夏は言葉を濁した。
「だから、具体的なことは何もないんだって」
「名前だけでも教えろよ」
「相手に迷惑かけたら悪いから」
「俺が? 俺がなんかすると思うのか?」
「そうじゃなくて……」
もう、どうしたらいいかわからなくなった。 中学生のときの事件を、今更蒸し返して人に話すのはよくない。 それに、白井勇吾が古河博己だという証拠は、何もないのだ。
「最近、本を借りるようになった人なの」
それも、未夏がカウンターにいるときに限って、来るような気がする。 もしかすると、自意識過剰かもしれないが。
「いろいろ事情があって、名乗れないのかな、と思うんだ。 懐かしいのに」
「へえ」
馬鹿にしたような響きが声に混じった。
「ヤバげじゃん。 そんなのに関わるなって」
確かに、そうかもしれなかった。 でも……。
「俺たちずっと仲よかったよなー。 そこへ突然割り込まれたら、なんかすっきりしない」
「まだ全然割り込みまで行ってないよ。 そうだ、明日の夜、どこかで会って話する?」
「そうだな。 フロッグハウスで八時は?」
「わかった。 じゃね」」
電話を切った後、未夏は重い足取りで、自転車を出しに行った。
やっぱりうまく説明できなかった。 それどころか、逆に体育会系の達弥を刺激して、闘争心を掻き立ててしまったようだ。
「下手な話し方しちゃったな。 まずいなー本当に」
普段は出ないのに、独り言が何度も口からこぼれるほど、未夏は動揺していた。
学校が休みの土曜日は、週日よりずっと来館者が多い。 常連や大人たちに混じって、ゲームを借りに来る子や、コミックのシリーズが揃ったかどうか問い合わせする子、果ては、書架の後ろに本を積んで秘密基地を作る一団までいて、いつものように気が抜けなかった。
その傍らで、幸田が一人、どよーんとしていた。
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