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市立図書館の閉館時間は午後七時だが、きっちりその時間に帰れるわけではない。
後片付けや戸締まり、電気の点検などで、その夜に未夏が滝山と並んでエントランスを出たころは、もう八時近かった。
「お疲れ様」
「お疲れ様です。 これからオレンジホームへサム君のお迎えですか?」
「いや、今日はダンナがいるから、迎えに行ってくれたの」
サムとは、
修
〔
おさむ
〕
の略で、滝山の大事な一人息子の名前だった。
「そうですか。 じゃ、また明日」
「また明日ね」
手を上げ合って、滝山は駐車場へ、未夏は駐輪場へ向かった。
いい天気で、たくさんの星が出ていた。 すぐに愛車のところへ行かずに、未夏はしばらく空を眺めてから、端にあるベンチに座った。
携帯を取り出した後も、ちょっと考えた。 なんと説明したらいいんだろう。 この惑いと、不思議な予感、目まいがするような気持ちを。
ようやくボタンを押したとき、手が冷たかった。
二つ呼び出しが鳴って、すぐ達弥が出た。
「未夏?」
嬉しさに不安の混じった、微妙な声音だった。
未夏は電話を握り直し、慎重に口を切った。
「そう。 待たせてごめん。 あの」
そこで一旦息を吸って、できるだけ普通に言った。
「夏休みは取れないかもしれない。 仕事が重なっちゃって」
嘘ではない。 九月には下半期の注文をしなくてはならないから、また本選びがある。 夏休み読書会や朗読会の企画も。 だが、本音を言えば、特に急ぐ仕事ではなかった。
少し間があいて、達弥が思いがけないことを言った。
「他に、好きな奴、できた?」
未夏は二の句が継げなくなった。
ほんのわずかな沈黙だったが、達弥の問いを認めたようなことになってしまった。
「いや、そうじゃなくて」
「でも誰か、気になってるんだろ?」
「あの、好きとかじゃなくてね。 会ったばっかりだし。 ただ」
また息が切れた。
「……前にも会ったような気がして、落ち着かないの」
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