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未夏の表情が変わったのを見て、白井は戸惑ったようだった。 声が少し小さくなり、態度もしぼんだ。
「あの、本を返しに来たんですが」
あわてて、未夏は精一杯の笑顔を作った。
「はい、返却ですね」
「そうです。 それで、今度はこれ、借ります」
「はい」
態度が不自然に見えただろうか。 反省して、未夏は手続しながら前の相手に話しかけた。
「あの、白井さん昔知ってた人に似てるんですよ。 だから、顔見るたびにちょっとびっくりして」
「そうですか」
なぜか、白井はそれを聞いて、急に活き活きした口調になった。
「前にも言われたことありますよ。 よく似てるって。 そのせいで仲よくしてもらってます」
「へえ、そうなんですか」
やっぱり他人の空似だ、と納得しかけた未夏に、思わぬ言葉が聞こえた。
「家族がいないんでね、その分、友達は大事にしないと」
本からカードを抜く手が、びくっとなった。
家族が……いない?
「一人、ですか?」
「ええ」
そう言って、白井は新しく借りた大判のデザイン本を、重そうに抱えた。
「じゃ、どうも」
会釈を返してから、未夏は無言で青年の背中を見送った。 胸が、嵐の前触れのように不規則に波立ちはじめていた。
そして翌日の金曜日が来た。 幸田みさが、たぶん強引に坂口と待ち合わせを決めた日だ。
案の定、幸田は早退を申し出て、昼前にさっさと帰宅してしまった。
「私が帰ってきたとたんに、こうよ。 休めないように運命付けられてるのかしらね」
冗談めかして大げさなことを言いながらも、滝山の目は笑っていなかった。
「幸田さんは、今夜ちょっと用事があるらしくて」
「どうせデートじゃないの?」
滝山にはお見通しだ。 整理のついた新購入の書架を点検して、ずばりと言った。
「これほとんどあなたがやったんでしょう? 彼女のお給料、本当は少なくとも三割はあなたのものね」
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叶屋
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