表紙








とりのうた 31



 いったい何をくれたんだろう。
 好奇心が湧いて、包みを何度か手の上で引っくり返してみた後、未夏は思い切ってシールを取ろうとした。
 そのときだった。 幸田みさが入口の階段をパッパと駆け上がってきて、ドアを開けるのが見えたのは。
 反射的に、未夏は自分にもらった分の包みを引き出しに落とし、素早く閉めてしまった。

 まだ正午を十五分ほど回っただけなのに、幸田みさはそわそわと入ってきた。 そしてカウンターに直行すると、未夏に訊いた。
「ねえ、坂口さんまだ来ないよね?」
 昨日は四時頃だったから、今日も遅いだろうと思いつつ、やはり気になって早めに戻ってきたらしかった。
 少々気の咎めを感じながら、未夏はパンフレットの角を揃えた。
「あーっと、さっき来た。 昼休みだからじゃない?」
 幸田は棒立ちになった。
「えーっ? それで何て?」
「これ渡してくれって。 お礼に」
「お礼って……キーのこと、どう言ったの?」
 未夏は視線を外すと、できるだけさりげなく言った。
「あの、さ、みさちゃん、引出しに入れてたよ。 このハンカチでくるんで」

 四角く畳んだハンカチを見せられて、幸田は逆上寸前になった。
「それで? 返しちゃったの?」
「返した。 坂口さんもサラリーマンで忙しいでしょう? 三日も続けて来させるのは気の毒……」
「余計なことしないでよ!」
 押さえた声で叫ぶなり、幸田は包みを引ったくって、ずんずんとロッカールームへ歩いていってしまった。


 残された未夏は、ちょっと憂鬱になって、カウンターに頬杖をついて考えこんだ。
――余計なお世話だったかな。 でも、あまり引き伸ばすと逆効果だと思うなー。
 それに、お坊ちゃんで、おまけにあのルックスで話し方なら、いくらでも女の子が寄ってくるよ。 追っかけしたって、遊ばれるだけじゃないのー?――
 幸田のセレブ好き、わからないわけじゃない。 でも、『これ別荘の鍵で』なんてサラッと言える人種は、未夏には付き合いきれなかった。
――テンパって、仮にデートできたとしよう。 ドレスだ、靴だ、アクセだって、いったいいくらかかる? 司書の給料で、持つわけないよ――
 預金通帳の残高が目に浮かんだ。 ぶるぶるっと首を振って、未夏はまたパンフレットの仕分けにかかった。








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