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本を抱いた女の子たちが出ていって少しして、ショルダーバッグを鷲掴みにした幸田みさが戻ってきた。 顔が引きつって狼狽している様子だった。
カウンターに未夏だけしかいないのを見ると、幸田は噛みつくように訊いた。
「坂口さんは?」
未夏は柱の時計を見上げた。
「五分くらい前に帰った」
「引き止めといてくれればいいのに!」
高い声が響き渡って、あちこちの机から閲覧者が顔を上げた。
さすがに自分の妙な態度に気付いたらしい。 幸田は視線を落として、もぞもぞと身動きした。
「ごめん。 探し物が見つからなくて、ちょっとパニクってるの」
「人を待たせてるから帰るって。 明日もう一度来るって言ってた」
とたんに幸田の表情が緩んだ。
「よかったー。 あ、ごめんね本当に。 私、奥やるからね」
いそいそとバッグを抱え直す幸田に、未夏は尋ねた。
「あの坂口って人のために、カウンター代わったの?」
「そうよ」
さも当たり前だという口調で、幸田は答えた。 それから、目を大きくした。
「あれ、未夏さん彼のこと知らないの? ずっとここら辺に住んでるのに? ほーら、茨城で坂口総合開発っていったら、有名じゃない」
すっかり機嫌を直して、幸田は書架の向こうに姿を消した。
一方、未夏は視線を宙に浮かせて、思い出そうとした。
――坂口総合開発? 大きな会社だってことは知ってる。 鹿嶋に本社があって、たしか鉾田市に立派な社員寮があるよね。 坂口って苗字だから、社長とか会長の一族なのかな――
確かに、彼は裕福そうだった。 服装や身のこなしで、なんとなくわかる。 で、幸田は何を狙ってるんだろう。
――玉の輿? そりゃ無理だべ。 図書館の受付って、会社の受付嬢とは天と地の差……までは行かないけど、顔で選ぶわけじゃないんだから――
着ている地味なシャツと、制服のエプロン風スモックを見渡して、未夏は苦笑いを浮かべた。
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