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言葉通り、達弥は一時まで閲覧ルームに入りこんでいた。
最初はコミック雑誌をパラパラ読んだり、海の写真集を手に取ったりしていたが、涼しくて静かな室内が心地よかったのだろう。 三十分ほどして未夏が目で探すと、端の机でぐっすり寝入っていた。
授業中に居眠りしている学生そっくりだ。 クスッと笑って、未夏はまた貸出票のチェックに戻った。
一時を二十分近く回ってから、幸田みさがやっと戻ってきた。
何やら不機嫌そうな顔をしていた。 遅れてごめん、とも言わずにカウンターに入ってきて、鼻から強く息を吐いた。
「何よ、カッコつけちゃって」
「え?」
まさかとは思うが、自分のことを言われたのかと、未夏は眉をひそめて顔を上げた。
幸田はその反応に気付き、急いで手を振った。
「いや、小此木さんのことじゃないの。 まあいいわ。 ここまで来るかどうか、見てやる」
ここまで? 勝手にしゃべるだけで説明しないから、何のことか見当もつかない。 白けた気分で、未夏は席を立つと、事務的に言った。
「じゃ、後お願い。 食事に行ってきます」
達弥と二人で入るのは、いつも庶民的な店だ。 その日も、顔見知りの『みさき屋』という食堂で、いろいろ伊豆の島の話を聞き、スナップ写真を見ながら、元気にアナゴ丼を食べた。
平日の昼間は、入館者が少ない。 急いで戻る必要がないため、食堂を出てから規定の三時近くまで、二人はゆったりと市役所裏の公園で腹ごなしした。
茶色のベンチに並んで坐ると、達弥が珍しく自分から切り出した。
「あのさ、夏休み、いつ取れる?」
「夏休み? えーと、図書館って人が休んでる日に開けるでしょ? だから、お盆のシーズンの前か後かな。 七月の終わりから八月の初めぐらいか、八月後半」
「じゃ、そのどっちか、休み合わせて、何日か旅行しない?」
未夏は、ぎくっとなった。
二人きりで旅行? ということは……。 とうとう大人の付き合いになるのか?
市立図書館の休館日は月曜。 一般サラリーマンとは違う。 だから余計に、本格的な付き合いができないでいるのかもしれなかった。
目を外して、木の梢を見たり、遠くの子供に視線を向けたりしながら、達弥は不自然なほど早口になった。
「俺、これまで渡り鳥だったけど、未夏となら一つ屋根の下でうまくやってけるんじゃないかと思うんだ」
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