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第一、名前からして違う。 白井勇吾と、古河博己じゃ……。
それでも、割り切れないような妙な気分で、また館内に戻ろうとしたとき、道で小さなブレーキの音に続いて、呼び声が聞こえた。
「未夏!」
あ、
達弥
〔
たつや
〕
。
未夏は少し驚いた。 彼は、ゴールデンウィーク中働く代わり、翌日まで代休を取って伊豆へ行っているはずなのだ。
「あれ? 今日は下田でのんびりするんじゃなかった?」
がっちりしたマウンテンバイクから降りて、達弥はくったくのない笑顔を見せた。
「いやー、一日ですっかり疲れ取れたから、昨日温泉巡りして、今朝帰ってきちゃった」
トントンと段を下り、未夏は達弥と並んだ。 身長が彼の肩あたりまでしかない。 達弥は一八五センチを越す長身だった。
「で? 何位だった?」
「三位」
「うわ、凄!」
やったね! と、二人は手を打ち合わせた。
「思ったより体調よかった。 特にランがうまくいった」
達弥は伊豆の島で、土曜日に開催されたトライアスロンに参加していた。
「で? 今日は買い物?」
「ちがうよー、未夏に会いに来たんじゃないかー」
そう言って、達弥は照れたのか、濃く日焼けした頬をレンガ色に赤らめた。
未夏のほうは、嬉しくて笑顔になった。
「そっかー」
「昼飯いっしょに食おうよ」
「いいけど、今日は遅番で、一時まで仕事なんだ」
そこで気がついて、未夏は飛び上がった。
「あ、カウンター放りっぱなしだ!」
「早く行け。 俺バイクあっちに止めたら、中で待つから」
「はーい」
いそいそと、未夏はエントランスの段をまた駆け上った。
達弥は、同じ大学の一コ上だった。 学生時代はボート部にいた。
卒業後は食品会社の営業部に入り、休みの日はサーフィンやウィンドサーフィンで過ごしている。 未夏も泳ぎが好きだから、夏に海で何度か顔を合わせて、自然に話すようになった。
友人関係が長く続き、二年ほど前からお互いをなんとなく意識し出した。 でもまだ、友達以上・恋人未満という、微妙な段階ではあった。
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