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胸に響くものが、前に立つ男性の顔立ちにあった。
なぜだろう、と未夏が思い出そうとしたとき、男は申し込み用紙に運転免許証を重ねて、さっと差し出した。
「利用者カード、お願いします」
「はい」
申し込む資格があるのは、市の住民か、勤め先や通学先が市内にある人だ。 未夏は注意して紙を見た。
――K市桜平九の二五の八、
白井勇吾
〔
しらい ゆうご
〕
。 知らない名前だ――
首をひねりながら、ボックスから新規カードを出して、すぐに発行した。
白井青年は、にこっと笑ってカードを受け取った。
「どうも。 ここ、何冊まで借りられるんです?」
「十冊までで、期間は十四日間です。 CDやDVDは五つまで」
ざっと室内を見渡して、白井は感心した。
「いいデザインですね。 明るくて」
「おととし改築したんですよ。 その前はちょっと設備なんか古くて」
「今はいいですね、動線バッチリで」
銅線? 勘違いした未夏が戸惑っていると、白井は分厚い表紙の大きな本を二冊、カウンターに載せた。
「もう今日から借りていいんですか?」
「はい、借りていただけます。 ええと」
本はどちらも、建築設計に関するものだった。 ああ、だから図書館のデザインに興味があったんだ、と、未夏は納得した。
白井が大判の本を抱えて出ていく後ろ姿を、未夏は何となく目で追っていた。
――誰かに似てるんだけど……誰だったかな。 大学の先輩? ううん、違う。 従兄弟の卓郎、じゃないし…… ――
あっ!
顔から血の気が引いたのが、自分でわかった。 やみくもに立ち上がったので、ボールペンが服に当たって転がり落ちたが、気付かなかった。
未夏は出口まで走り、ガラスの自在ドアを押し開けて、エントランスに飛び出した。
七段下の道路は、五月の爽やかな陽光に照らされて、銀色に光っていた。 通行人が気持ちよさそうに数人歩いていたが、その中に白井勇吾の姿はなかった。
未夏は、ドアに手を置いて立ち尽くした。 そして、自分に言い聞かせた。
――他人の空似だ。 たくさん町がある中で、わざわざここを選んで帰ってくるはずない。 あの人は、ヒロちゃんなんかじゃない!――
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